マスクから習近平まで俎上に=ファーストレディが物議醸す時代

昨年11月16日、リオで公演した際に「fuck you, Elon Musk」と発言して物議を醸したジャンジャ(RS/Fotos Públicas)
昨年11月16日、リオで公演した際に「fuck you, Elon Musk」と発言して物議を醸したジャンジャ(RS/Fotos Públicas)

 5月、ブラジルのファーストレディ、ロサンジェラ・ルーラ・ダ・シルヴァ(通称ジャンジャ)は北京での公式行事で習近平国家主席にTikTokの悪影響を問いただし、外交儀礼を無視した発言で場を凍らせた。2024年11月には、G20リオデジャネイロで、観衆の前でイーロン・マスクを英語で痛烈に批判。マスクがトランプ次期大統領の政権入りを発表した直後で、会場の若者たちは拍手喝采を送った一幕があった。新しいタイプのファーストレディーを分析する記事を16日付BBC(1)などが報じた。
 穏健が主流だったファーストレディ像に反し、ジャンジャは社会問題や政治に積極関与し、賛否両論を巻き起こしている。選挙で選ばれず、公職でもない立場への疑問の声がある一方、過剰な批判は性差別的だと指摘する専門家もいる。
 ジャンジャは社会学者としてキャリアを積み、かつてパラナ州のイタイプ・ビナシオナルで持続可能な開発プログラムを担当していた。ルーラ大統領にとって3人目の妻であり、2019年に交際が公になった。2022年の大統領選では、彼女は選挙戦を支える重要な存在となった。
 ジャンジャの行動が問題視されるのは、その立場の曖昧さに起因する。ファーストレディは憲法上の正式な役職ではなく、権限も明文化されていない。政府法務局(AGU)は、2025年に「大統領配偶者の象徴的な代表」という指針を発表したものの、依然として制度的な裏付けは乏しい。
 こうした中で、ジャンジャは様々な政治的テーマに関与し続ける。2024年9月には、ボウソナロ前政権を批判した際の誤情報により、ルーラ夫妻に名誉毀損賠償が命じられた。人権相によるセクハラ疑惑の際には、人種平等大臣への支持をSNSで表明し、再び注目を集めた。
 サンパウロ大学のジェシカ・リヴェッティ・メロ氏は、ファーストレディの役割を正式に制度化すべきだと提言する。「明確な枠組みがあれば、どのような発言や行動が求められるのかがはっきりし、不当な批判も減る」と語る。
 アラゴアス連邦大学のルシアナ・サンタナ氏は、過去のファーストレディが特定の社会的テーマに集中していたのに対し、ジャンジャは幅広い分野に口を出していることが批判を招いていると指摘。「政治的分断が強まる今、彼女のような存在は格好の標的になりやすい」と述べた。
 2024年の調査によれば、ジャンジャの活動にかかる年間費用は約200万レアル(約6千万円)で、専属スタッフ8人を擁する。だが、その影響力に見合う制度的な整備は追いついていない。
 ファーストレディの存在意義と限界が問われる時代。ジャンジャの行動は、単なる「お騒がせ」にとどまらず、ブラジル社会が抱えるジェンダーと政治の課題を浮き彫りにしている。 

最新記事