マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(17)=サンパウロ 梅津久

第10話―交通マナー

 ブラジルの交通事情は非常に悪く、交通道徳もなっていない。まず歩行者は歩道があっても歩道を歩かないし、横断歩道、まして歩道橋などは使わない。
 15年位前(1980年初期)、サンパウロ市東洋街近くのジョン・メンデス広場に、日本のある企業の寄付で大きく立派な歩道橋が出来た。
 しかし、市民は相変わらず交通量の激しい中を身の危険を押して、車の間を走って横断し続けた。折角の立派な歩道橋は閑古鳥が鳴いていた。
 結局、数カ月でその陸橋は取り壊されてしまった。これはほんの一例で、街の至る所で同じことが幾度となく繰り返されている。
 マナウスに移転して来てもまた同じ光景に出会っている。交通量が激しく、横断するのに危険な所に陸橋を設置しても、人々は面倒なので、陸橋の下を身の危険を侵して横断している。そして車に跳ねられ、死亡する事故が後をたたない。
 “何が危険で何が安全なのか”を理解出来ない彼等には無駄なことなのかもしれない。
 私はリベルダーデ街ガルボン・ブエノの橋から、下を通る高速道路ミニョコン(ミミズの意味で東京の首都高速道路と同じ)の車の流れを良く眺めていた。100キロから140キロのスピードで走る車の間を一目散に横切る人の姿を感心して見ていたものである。
 また、もっと身近な光景では、子供連れのお母さんが、自分は歩道の奥側を歩き、手を引かれた子供はなんと車がブンブン通る車道側を歩いている。日本なら「あのお母さんちょっとおかしいんじゃない」ということになるが。
 ブラジル人はこの様に危険意識が非常に低く、仕事でも考えられない様な事故が頻繁に発生するので、わかりやすく簡単に繰り返しお教えることが必要である。
 マナウスの工業団地スフラマ(マナウス・フリーゾーン監督局)の前の歩道。夕方、仕事から帰るとき、仕事を終えた労働者達が道端の売店でビールを買って、中央分離帯の路肩に腰をおろし、足を車道に投げ出し、座ってビールを飲んでいる。危なくて走れたものでない。どうして歩道には机も椅子も用意されているのに。
 また、車は車で交通法規を守らない。交差点では赤信号でも車が突っ込んで来る。特に夜の交差点での青信号はスピードを落として注意して通過しないと逆に突っ込んで来るので危ない。青信号は“注意信号”。左右を良く確認して通過です。
 また、ウィンカーを出さず急に曲がる車があれば、ウィンカーを点けたままで曲がるのか曲がらないのかわからない車もある。「おいおい、お前の後ろには俺がいるんだよ、はっきりしてくれ」である。
 また割り込みが多く、法定速度で車間距離を保って走っていると次々と割り込んでくる。さらにはオートドラムの世界の様に、車線をまたいで走っている車の後ろにつくと一番ストレスになる。一人で二車線占領している。「おい、どちらかに寄ってくれよ」。
 また、追い越し車線をのんきに走っている車も多い。いまにも壊れそうな古い車や、荷物を積んだ大型トラックが追い越し車線をのろのろ走っており、後ろから追いついて、パッシングしてもいっこうに走行車線に戻ろうとしない。まるで自分だけの道路みたいしている「ドーノ・ダ・ルア」(道路のオーナー)運転手が非常に多い。道路法規を知らず、運転の下手な者は「バルベーロ」(理髪師―下手な運転手)とも言って、手でひげを剃るジェスチャーをしてひやかしたりする。
 これらは、周りを気にして“こせこせ”と生活している日本人と違って“Go my Way(わが道を行く)”のゆったりした生活の現れかも。

 

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