宮坂邦人財団、創立25周年迎える=日系社会支援に尽力=環境保全活動も展開

西尾理事長(左)とマルシオさん

 日系団体の支援を行う宮坂邦人財団が今年、設立25周年を迎えた。同財団の西尾ロベルト理事長がこれまでの活動を振り返り、現在運営に力を入れているイミグランテス・エコロジカル・パークの今後について語った。

 宮坂邦人財団は1998年10月21日に設立された。当時は、それまで日系社会の活動支援の大部分を担っていたコチア、南伯両産業組合が解体され、日系社会の活動停滞が問題視された時期だった。両団体の役割を引き継ぐための組織として南米銀行の伝田耕平社長が、同財団の設立を提案した。
 西尾理事長は財団創設時、財産としてあったのは買収先が見つからなかった農場や企業だけで「財団として体制が確立するまでに10年ほどかかりました」と当時の苦労を振り返った。
 西尾理事長はパラナ州アサイー市出身。1958年から98年の40年間、同市の銀行に定年退職するまで勤めた。その後、同年に同財団の副理事長に就き、13年に理事長に就任した。今年4月で5期目を迎えた。
 宮坂邦人財団は設立以来、日系社会の文化、社会、スポーツ活動への支援を行ってきた。
 ブラジル各地で行われる日本祭りやスポーツ、文化イベントの開催を支援し、こどものそのや、希望の家、憩の園などの福祉団体、サンタクルス病院、日本移民史料館などの施設に毎月寄付を行っている。これまでに100冊以上の書籍の刊行を支援した。
 社会環境教育活動の一環として、2018年からはサンパウロ市イミグランテス・エコロジカル・パークの運営も行っている。
 同パークはイミグランテス道沿いに位置し、原生林マタ・アトランチカ(大西洋岸森林)の生態系を学ぶことができる。

イミグランテス・エコロジカル・パークを見学する学生ら

 パーク管理者のマルシオ・コウイチ・タキグチさんは「パークはブラジルの重要な社会環境教育の場になっています」と強調する。
 西尾理事長はパークを「日系社会からブラジルへの贈り物」と称し、「教育を通じて、動植物保護の重要性を伝えている」とパークの社会的役割を語った。
 また、マルシオさんは「パークは動植物の研究調査のための実験場として設計されていますが、自然との触れ合いを求める市民の行楽地としても親しまれており、これまでに1万5千人が来園しています」と話す。
 パークはサンパウロ連邦大学(UNIFESP)と提携を結んでおり、実地演習にも使用されている。これまで同大学の学生は200km離れた別の公園で研究活動を行っていた。パークと大学の距離はわずか15kmで、移動時間が大幅に短縮された。
 同大学はパーク内の動植物識別及びカタログ化事業を行っている。マルシオさんは大学との提携により、絶滅危惧種の特定や繁殖活動、炭素クレジットの獲得など環境問題への貢献が可能になっていると語った。
 西尾理事長は、パークはいまだ開発段階にあり、PRONAC(連邦政府文化支援プログラム)で承認された約900万レアルのプロジェクトで、新たな事業スペースの構築を計画しているという。
 新たな事業スペースには、イベントや展示会に用いる円形劇場、大西洋岸森林の動植物に関する技術的及び科学的研究を支援するための研究所を建設予定だという。
 マルシオさんはPRONACからの承認を受ける際、「大西洋岸森林は自然遺産であると同時に、野外博物館として文化遺産としても重要な価値がある」と主張したという。
 また、PRONACにより企業は税制優遇措置を受けてパークへのスポンサーシップ協力ができるようになったという。
 UNIFESPとの連携プロジェクト「プロメル」も進行中だ。同プロジェクトでは自然を破壊せずに採取した針無蜂の蜂蜜で、地元コミュニティの収入獲得を目指す。
 マルシオさんは「自然環境の変化によって蜜蜂がいなくなってしまえば、蜂蜜製品も作れなくなる。プロジェクトを通じて環境問題へ意識を向けてもらいたい」と話した。同プロジェクトは20人規模で開始されたが、2024年には200人が参加する規模に成長させる予定だという。

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