近年、ブラジルは豊かな自然環境と多様な文化遺産が再評価され、観光地としての魅力が集まっている。コロナ禍からの回復を背景に、国内外からの観光客を呼び込む新たな取り組みが加速。エコツーリズムやラグジュアリーツーリズム、日本移民の足跡を含めた地域文化を生かした観光ルートの開発が進行中だ。こうした動きは観光業に活力を与え、持続可能な発展への重要な一歩となっている。
●体験型ラグジュアリーで付加価値を創出
近年、富裕層向けラグジュアリーツーリズム（富裕層観光）でも、ブラジルは急速に注目されている。自然環境と文化を融合させた高品質な体験が人気を呼び、持続可能性や地域との共生を重視する新たな観光形態が広がっている。（１）
真っ白な大砂丘で知られる北東部レンソイス・マラニェンセス国立公園では、ブティック宿「オイア・カーザ・レンソイス」が、宿泊と絶景トレッキングを組み合わせた没入型の旅を展開。観光地化されていない村も訪問先に含まれる。
北部のアマゾン川では高級リバークルーズ「カイアラ・アマゾニア」が、原生林探訪や地元住民との交流を含む5泊の航行を提案。自然と文化が交差する贅沢体験が人気だ。（２）
野生動物観察ではパンタナール湿原が国際的に評価されている。自然保護区「カイマン・エコロジカル・リフュージ」では、ジャガーやカピバラなど希少種の観察に加え、環境保全NGO「オンサファリ」と連携した生態調査やGPS追跡の同行プログラムも提供。
中央高原セラードでは「ポウサーダ・トリジュンソン」などが拠点となり、絶滅危惧種タテガミオオカミの追跡体験を実施。保全と観光の両立を図っている。（３）
●日系移民の足跡たどる旅、レジストロに新ルート
零細・小企業支援機関（Sebrae）はサンパウロ州内陸部のレジストロ市にて、日本人移民の歴史と文化を紹介する新たな観光ルート「イミグラソン・ジャポネーザ・デ・レジストロ」を開設した。（４）（５）
同市は20世紀初頭に日本人移民を受け入れた国内有数の都市の一つで、現在も約1200世帯の日系人が暮らし、人口の8〜10％を占める。こうした歴史的背景を活かし、新ルートでは、日本移民資料館や文化協会、仏教寺院、「茶の都」と称された同市の象徴である茶畑など、文化・歴史的見どころを巡る構成となっている。
旅行代理店によるツアーも企画されており、金〜日曜の3日間の旅程には、観光施設の入場料、食事、宿泊、交通費、アクティビティ保険、専属ガイドの案内などが含まれる。
この取り組みは移民の遺産を観光資源として再評価し、自然と文化を融合させた体験型ツーリズムを通じて地域経済の活性化を図る試みとして注目されている。
詳しくはSebrae公式サイト（https://sp.agenciasebrae.com.br/wp-content/uploads/sites/25/2025/04/Imigracao-Japonesa-de-Registro.pdf）で。
●エコツーリズムが外国人誘致に有望視
ブラジルは自然資源を最大限に活かしたエコツーリズムでも国際的注目を集めている。米経済誌『フォーブス』が直近の2023年に発表した「エコツーリズム指数」で、ブラジルは100点満点中94・9点を獲得し、世界第1位に選出。評価項目は生物種の多様性、10平方キロメートルあたりの種密度、保護区の割合、ユネスコ自然遺産の数などで、メキシコやオーストラリアなどを大きく上回った。特に4万3千種以上の動植物と絶滅危惧種を保護するアマゾン中央保全区が高評価を得た。（６）（７）
政府はこの評価を追い風に、エコツーリズム強化に向け具体策を推進。観光省は2023年に「国家観光計画・持続可能性・競争力局」を設置し、環境負荷低減と持続可能な観光モデルの普及を進めるほか、「法定アマゾンにおける森林破壊防止行動計画（PPPCDAm）」にも参加。エコツーリズムやリジェネラティブ・ツーリズム（訪れた地をより良く再生する観光）を経済・地域発展と環境保全の両立の柱とする。
環境省やシコ・メンデス生物多様性保全研究所（ICMBio）と連携し、各地の自然・文化資源を結ぶ長距離トレイル「レーデ・トリーリャス」を整備。全国約200ルート、総延長4万1千キロ超に達する。これらは国立公園や保護区を徒歩で巡る持続可能な観光の促進と地域雇用創出を目指すと同時に、植生回廊に沿い生態系連続性を保つ「生態回廊」の役割も担っている。（８）
●包括的な国際観光戦略、持続可能な観光リーダーへ
5月19～20日、リオ市で観光促進イベント「Visit Brasil Summit」第1回が開催された。ブラジル観光公社（Embratur）とSebraeの共催で、国内外の観光関係者や専門家が集まり、観光の経済的・社会的可能性を議論した。（９）（１０）
連邦政府の国際観光戦略「プラノ・ブラジス」が発表され、持続可能性推進、地域文化尊重、デジタル活用、中小企業支援を柱に、多様化と競争力強化を目指す方針が示された。リオやアマゾンなどの主要地に加え、地域密着型やコミュニティ主体の観光モデルを推進し、社会的包摂と経済的持続性の両立を図る点が特徴だ。
Embraturのマルセロ・フレイショ総裁は「観光は21世紀の雇用や収入、未来の希望を生む原動力で、持続可能な未来の基盤となり得る」と強調。SOSマタ・アトランチカ財団のマルシア・ヒロタ氏はブラジルの世界的な生物多様性に触れ、「国立公園を訪れ自然の豊かさを体験することは環境負荷を抑えた経済発展と地域連携強化につながる」と訴えた。（１１）
Embraturの調査では、観光業界関係者の77％が「ブラジルに持続可能な観光のリーダーとなる潜在力がある」と回答。持続可能な観光を戦略的優先事項と考える意見も81％にのぼる。（１２）
【参考記事】
（１）ラグジュアリー
https://oglobo.globo.com/ela/noticia/2025/05/23/tendencias-do-turismo-de-luxo-destinos-experiencias-e-novos-roteiros-de-desejo.ghtml （５月２３日）
（３）https://www.vogue.com/article/brazil-safari-destination （２０２４年８月１３日）
（４）レジストロ
https://g1.globo.com/sp/santos-regiao/noticia/2025/05/12/imigracao-japonesa-no-interior-de-sp-vira-guia-de-roteiro-turistico-entenda.ghtml （５月１２日）
（５）https://g1.globo.com/sp/santos-regiao/noticia/2024/10/23/registro-sp-tera-novo-roteiro-turistico-sobre-a-imigracao-japonesa-entenda.ghtml （２０２４年１０月２３日）
（６）フォーブス
https://www.gov.br/turismo/pt-br/assuntos/noticias/forbes-aponta-brasil-como-melhor-pais-do-mundo-para-ecoturismo （２０２３年８月３日）
（７）https://www.forbes.com/uk/advisor/travel-insurance/ecotourism-destinations/
（２０２３年７月１１日）
（８）エコツーリズム
https://www.gov.br/mma/pt-br/noticias/volta-da-ilha-grande-passa-a-integrar-a-redetrilhas （５月２２日）
