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《記者コラム》若返ったゲートボールから学べる事=20年がかりの取り組みが花開く

リブレ部門優勝のゴイアニアA主将渡口さん(左)に勝利インタビューする萩尾会長

ネットでライブ中継するゲートボール大会

 「ブラジルのゲートボール(GB)はこの20年間で生まれ変わった」―10日にサンパウロ市の本藤利(とおる)連合コートで行われた第1回パンアメリカン(汎米)大会を取材しながら、そんな感慨を抱いた。
 今大会ではインターネット中継のプロを雇ってライブ中継され、会場にいなくても勝敗が分かるようになっていた。汎米連合の萩尾勝巳ジュリオ会長(62歳、2世)自らが終始マイクを握って、アナウンサーとして試合の実況中継をし、必要に応じて選手本人やチーム役員にもコメントしてもらうようにマイクを預けるなど、実に現代的な大会運営が行われていた。
 日本でGBといえば「老人のスポーツ」というイメージが今でも強いかもしれない。でもブラジルでは知らない間に生まれ変わっていた。これは、高齢化が進む多くの日系団体にとっても良いモデルケースでは。
 コートから「カーン」という小気味よく響く、若さ溢れた打撃音を聞きながら、そんな思いに浸った。

本藤利会長時代から始まった若返りの動き

 ブラジルGB連合で会長5年目を迎える萩尾さんによれば、20年ほど前、本藤利会長時代にこの若返りの動きは始まった。
 ブラジルGB連合は1982年に創立。全盛期は2000年頃で約7千人の会員を誇り、2007年に開催された創立25周年記念全伯大会には1500人が参加した。だが先を見通して、このころから世代交代の取り組みが始まっていた。
 実際に高齢化によって2010年には会員が4千人に減り、トドメを刺すようにパンデミックによって30%も激減し、現在は2千人が会費を払っているのみ。
 だが萩尾会長ら役員が手分けして各地の大会に顔を出すという取り組みを通して、「会員の勧誘を進めて今年だけで400人の会員が入った」(萩尾会長)という。コロナ禍の打撃は間違いなく大きかったはずだが、今年に入ってからの回復ぶりは目覚ましいものがある。さらに注目すべきは「70%は青年が占めるようになった。今若い30代が相当入っている」という動きだろう。
 萩尾会長は「連合に参加する地方文協は約200団体あるので、連合の会員にはなっていなくても、各地でGBをやっている人は1万人ぐらいいる」と推測する。
 同連合顧問を務める鈴木雅夫さん(73歳、兵庫県出身)は、サンパウロ新聞東京支社長時代から入れて50年ほども同GB連合に関わっている生き字引だ。「ここ5年、10年ぐらいで一気に変わった印象だね。あと5年もしたら『若者のスポーツ』と言われるようになるかも」と語る。
 変化のキッカケになった出来事を聞くと、やはり「本藤さんが小賀さんに託したこと。小賀さんはUSPで学部長までやった非常に学識のある人。『これからは若い人に全部任せる』と一気に舵を切った。それが今花を咲かせている」と答えた。

歴代の会長が果たしてきた重要な仕事

小賀誠二さん

 現在の萩尾会長は2019年1月に就任。当時58歳だった。彼が30代から50代の多くの若手を役員に入れ、大幅な若返りを図った。
 それ以前の4年間は本多八郎会長、その前が小賀誠二会長(2011~2014年)だ。会場にいた小賀さん本人に若返りに関して質問すると、「かつて年寄りばっかりだったので、危機感があった。これ以上普及しない状態だった。だから若い人に連合の役員に入ってもらい、どんどんその仲間を増やしてもらった」と変化の考え方を説明した。
 若返りに伴い、「ジャポネースのスポーツと言われないように、非日系人にも入ってもらうようにした。コロニアのスポーツではなく、ブラジルのスポーツとして認められるようになって欲しい。州ごとに連合(Federação)を作ってもらい、中央の連盟Confederação組織にした」と述べた。
 連合ができれば、地方ごとに自主的に判断をして運営が行われるようになり、その地域の現状に即した対処が素早くできるようになる。つまり小賀さんの時代に、若者を理事に取り込んで若返りを図ると同時に、臨機応変に対応が図れるように組織改革をした。今回の汎米連合結成も小賀さんのアイデアだと言う。まさにこの20年間のGB界の変革を支える理論的な支柱となっている。
 小賀会長時代に、役員の世代交代に合わせ、役員会も平日から土曜日に変更。役員会など行事の使用言語もほとんどポルトガル語にし、1世よりも若い世代が優先して参加しやすい環境作りを進めた。
 本藤利さんはその前に7期14年間(1997~2010年)も会長を務めていた。本藤さんは1997年の会長就任後に現在の連合コート敷地を市から借り受け、トラック3千台分の土を入れて整地、日本移民90周年の98年に当時としては世界初の16面のゲートボールスタジアムを落成した。2002年の20周年を機に「もう〝成人〟なのだから自前の事務所を」と新事務所購入計画を開始。リッファやカラオケなどで資金を集め、09年に現在の場所を購入して念願を果たした。
 ブラジルGB連合の全盛期にしっかりと将来を見据えて物理的な基礎を固めたのが本藤さん。その基礎を活かして、7年間副会長として本藤さんを支えてきた小賀さんが若手役員への切り替えと組織改革を始めた。
 本多八郎会長も世界大会を地元開催して優勝を果たすという大仕事をして連合に勢いをつけさせ、現在の萩尾会長にバトンを手渡したというのが大きな流れだ。

若さ溢れるリブレ部門優勝のゴイアニアAチーム

どうやって若者を増やすか?

 では、どうしてGBにこんなに若者が増えたのか?
 若者本人に「どうしてGBを始めたの?」と尋ねると、異口同音に「親とか、知り合いの高齢者に誘われて、子どものころに始めた。褒められたり、勝って賞品をもらったり、大会参加のために一緒に旅行しているうちに、面白くなってのめり込みそのままズッと続けている」という返答が帰ってきた。
 つまり、子どもの頃からしっかりと仲間に巻き込んで、スポーツの面白さを教えていくことが大事なようだ。
 今回、リブレ部門優勝チームのゴイアニアAの主将の渡口マルコさん(36歳)にどれぐらい練習をしているのかと聞いてみたら、「ボクらチームは皆20年間ずっと同じメンバーで一緒にやっているから、すでにお互いの特長もよく分かっているので、そんなに毎日練習しているわけじゃない」という。
 20年前といえばまだ16歳――。「16歳でGBを始めたのか?」とたたみかけると、「違う。家族に誘われて10歳で始めた。最初は練習や試合にいって、オニギリもらって食べるのが楽しみだった。試合であちこちに旅行するのも刺激になった」と笑った。同チームは全員、900キロ離れたゴイアニアから飛行機で参加している。
 GBはチームプレーがかなり重視され、いかに相手チームのより多くのボールをコート外に押し出しておくかを競う部分がある。同チームの平均年齢は37~38歳と若いだけあって頭の回転も早くて決断力もある上、このチームプレーに実に長けている。この20年間に、全伯大会で優勝4回を誇るというのもうなずける。

最強の佐賀、台頭するイビラプエラ、カロン

 構成人員の大変化の象徴ともいえるのが、イビラプエラチーム。1団体とはしては最多の170人も選手がおり、テニスをやっていたような中産階級や富裕層が高齢化してゲートボールに目覚めて次々に入ってくる流れで、ここ最近急激に増えているようだ。今後数年以内に人数だけでなく、勝負成績でもメキメキ頭角を現す可能性があると言われる。
 以前から最多かつ最強を誇っていたのは佐賀チームで、この連合コートを拠点として約140人が毎日練習している。事実、今回の第1回汎米大会のシニア部門(70歳以上)では佐賀チームが1位、2位、3位を席巻した。
 注目株の一つは、今回のリブレ部門(年齢制限なし)で、惜しくも2位となったカロン協友チームだ。これはサンパウロ市ビラ・カロン区の沖縄系グループで、平日は毎日2~3時間練習し、土日は試合に走り回って鍛えているという。
 同チームメンバーに聞くと、若者や子どもの選手が急激に増えているという。「高齢者は午前中に練習し、午後は学校帰りの子ども、若者は仕事の後、夜に集まって練習しているから、一日中誰かコートで練習しているね」という状態らしい。

「一打一打の熱量がすごい」

山岸健太郎さん

 日本ゲートボール連合から派遣された山岸健太郎総務部課長にも聞くと、「ブラジルの方がより競技性が高い」との違いを感じていると言う。日本では競技人口5万人の7~8割が高齢者なのでリクレーションとしての側面が強く、ブラジルの方が若い分、勝敗に拘る傾向があるようだ。
 「日本も今の全国チャンピオンは高校生チーム。若い世代が新しい作戦を考えて、新時代を作ってきている。でも、現状ではブラジルの方が若い人の割合が高い」とのこと。調べてみると、最新の全日本ゲートボール選手権大会は2018年、19年で、作新学院(栃木県)チームが2連覇を決めている。
 日伯では打ち方も違うという。ブラジルでは、ボールを真ん中にしてまたがるように立ち、股の間にスティックを入れて前に打ち出す「跨ぎ打ち」が一般的だ。
 ところが、日本ではゴルフと同じような打ち方、体の正面でボールの打撃方向に平行に振る打ち方が一般的だという。
 「跨ぎ打ち」は、ゴルフを基準として考えると、少々見苦しい打ち方に見えなくもない。だが、「跨ぎ打ち」の方が正確にボールを正面から叩きやすいので理に適った叩き方ともいえる。

跨ぎ打ち

 ブラジルの競技レベルを山岸さんに質問すると、「2018年の世界大会はブラジルで開催され、決勝では躍進甚だしい中国チームと対戦して、ブラジルチームが見事競り勝ち、優勝を決めました。競技レベルは非常に高いといえます」と解説した。
 中国では近年急激にGBが普及しており、日本の競技人口5万人をとっくに超えていると推測される。だが、パンデミック後は競技人口が発表されていないので、正確な人数は分からないようだ。
 さらに山岸さんは「競技性が高いことに加え、若い競技者が多いこともあって、難しい打撃が成功したときになどに上がる歓声が大きくてビックリさせられます。一打一打の熱量がすごい」と感心した様子。
 今回、汎米連合が発足したことに関してコメントを求めると山岸さんは「南米連合時代に撤退してしまったボリビアとか、北米カナダの復帰を望んでいる。ぜひ汎米連合として再加入を呼びかけてほしい」と期待している。
 現在、GBに若い人がたくさん入ってきているのは、20年前に蒔いた種が育って花開いた成果だ。20年前に10代の子どもたちを上手に巻き込んだから、現在彼らが30代になって新しい世代を形成している。
 「今からじゃ、もう遅い」と諦める必要はない。日本語教育でもよし、日本舞踊、仏教、日本食普及でも何でも良い。今からでもその分野に10代を巻き込む取り組みをすれば、35年後には彼らが40~50代となって、日本移民150周年の節目をそれぞれの分野で見事に祝ってくれるだろう。(深)

試合のライブ中継をする機材とスタッフ

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