「拉致は過去の問題ではない」=サンパウロ市で『めぐみの誓い』上映会

上映会の様子

 「拉致は過去の問題ではありません。今現在も行われている可能性があります。日本の大問題に目を背けないで」。拉致失踪会ブラジル支部(鹿田正人代表)は10日午前10時、サンパウロ市の山形県人会館で北朝鮮による拉致問題を描いた映画『めぐみの誓い』(野伏翔(のぶし しょう)監督、2020年)の上映会を行い、鹿田代表(78歳)が真剣な表情でそう訴えた。あまりに残極な実話に約15人が涙ながらに鑑賞した。

映画のポスター

 本作品は、1977年11月15日夕方、新潟県にある学校のバドミントン部の練習の帰り道に忽然と姿を消した横田めぐみさん(当時13歳)の事例を中心に、日本人拉致被害者の北朝鮮での過酷な生活や残された家族の苦悩や問題解決に向けた闘いが描かれる。
 拉致工作員の手によって誘拐され、船底に閉じ込められた彼女は母親の名を泣き叫び、壁をかきむしって爪をはがす。北朝鮮に着くと、素直な彼女は「朝鮮語を覚えたら日本に帰してやる」という工作員の言葉を信じ、ひたすら勉強に励んだ。
 だが、言葉を学んで彼女が一人前になった18歳の時、その約束が嘘であったことが分かり、絶望の淵に立たされる。
 1978年に拉致された田口八重子の姿も描かれる。彼女は1987年に、日本人に成りすまして大韓航空機爆破事件を起こした北朝鮮工作員の金賢姫(キム・ヒョンヒ)の日本語教師だ。彼女の拉致疑惑は長い間謎とされて来たが、金賢姫の証言から実在が証明され問題になった。
 2020年5月時点で日本政府は17人(うち5人は帰国)を拉致被害者として認定している。だが特定失踪者問題調査会(1)の失踪者リストには約470人があり、警察には約900人の「拉致の可能性のある失踪者」のリストまである。
 同調査会リストの最後尾には2003年の失踪例も含まれており、鹿田さんは「日本はスパイ天国で工作員の潜入が容易。現在も続いている可能性がある」と警鐘を鳴らす。警察庁生活安全局人身安全・少年課資料(2)によれば、平和なはずの日本では2021年の行方不明者が約8万人もいる。横田めぐみさんと同じ10代の不明者だけで1万3577人だ。
 鹿田さんは「先日、拉致問題に関わった政治家の方たちに話を聞いたが、『打つ手はありません』と言うばかり。数年後に盛大な共同葬儀をやって終わらせようと考えている政治家もいると聞きます。このまま埋もれてしまったら日本の恥。現実は厳しいが、この上映会を小さな一歩として奪回の糸口にしたい」と意気込みを示した。

上映会の来場者と鹿田さん(右端)

 鹿田さんは1976年からサンパウロキリストの幕屋の牧師として活動、高齢のために昨年から東京在住になった。今も定期的に来伯する。
 来場者の高松玖枝さん(80歳、香川県)は「国をあげて『拉致は許さない』という声を挙げるべき」、元海上自衛隊勤務の長田(ながた)進さん(72歳、北海道)は「日本は独立国として主体性をもってほしい。言うべきことをキッチリと言ってほしい」、平野和則さん(77歳、愛媛県)は「被害者はやられた人たちですから、取り返すのは自己防衛の範囲のはず。理解のある国会議員の活躍に期待したい」と述べた。
 詳しくは映画「めぐみへの誓い」公式サイト(https://www.megumi-movie.net/)で。

(1)https://www.chosa-kai.jp/
(2)https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/R03yukuefumeisha.pdf

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