型へのこだわりが命取りになったチッチ

チッチ監督(Lucas Figueiredo/CBF)

 コラム子は先々週の当コラムで「チッチ監督の特色が出ているから、今W杯のブラジル代表(セレソン)は期待できる」と書いた。だが、皮肉なことが起こった。チッチ監督の特色をクロアチアに突かれ、セレソンは準々決勝で敗れてしまったのだ。
 チッチ・セレソンの特色の一つは「ゴール枠内へシュートさえ打たせない鉄壁の守備」だ。ネイマールをはじめとする派手な攻撃陣の陰に隠れながらも、センターバックのチアゴ・シウヴァとボランチのカゼミロの2人を中心とした守備は完璧で、この守備こそがチッチ・セレソンの真骨頂だった。セルビア戦、スイス戦の枠内シュートはゼロ。それはクロアチア戦でもほとんど同じだった。
 惜しむらくは鉄壁の守備唯一のミスが、よりにもよってクロアチア戦の延長後半残り3分という最悪のタイミングで出てしまったことだ。ミスを犯したのは守備固めで入ったボランチのフレッジ。彼は予てから守備の徹底が出来ておらず不安視されていた選手だった。試合を直接決めたのはこの後のPK戦だったが、1点のリードを守れなかったことが結局は致命傷だった。
 特色の二つ目は、「変わらぬスタイル」を保持することだ。チッチ・セレソンの攻撃面に関しては、多くのシュートを打っても点に繋がらないことが問題視されていた。レギュラーメンバーを休ませるため、控え選手で臨んだカメルーン戦では、21本のシュートで無得点。クロアチア戦でも21本のシュートで1点。攻撃のリズムそのものはかなり悪くなっていた。
 それでもチッチ監督は戦術変更を行わなかった。選手で変えたのは故障の判明した選手のみで、その他はレギュラー選手の序列もフォーメーションも何も変えることがなかった。
 これがリーグ戦なら、目先の勝利を優先して理想的な戦型を崩してしまうことよりも、「そのうち調子は戻る」と基本戦術を貫くのが良いのかもしれない。だが問題は、W杯が短期決戦であることだ。選手が調子を崩したり、戦術が通用しなくなったら、それが命取りとなって即敗退してしまう。その対処がチッチ氏は甘かったのかもしれない。
 決勝戦へ進んだアルゼンチンが、毎試合先発メンバーもフォーメーションも変えながら調子を上げ、準決勝のクロアチア戦では自分たちの得意の型を考えず、ひたすら「相手が嫌がるサッカー」を展開し、3―0と圧勝したのはなんとも皮肉な光景だった。(陽)

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