《特別寄稿》奇跡だ!メッシがマラドーナ化「ディエゴが空で見てくれている」在住者レポート アルゼンチンは今 相川知子

ダニエル・アルクッチ氏「これまでで最高のメッシ」

 「メッシがいつもと違う」と断言したのは、アルゼンチンのスポーツジャーナリスト、ダニエル・アルクッチ氏だ。彼は35年もの間、アルゼンチン代表を、そして2020年末に亡くなったマラドーナを一番近くで見てきた。
 彼は去る12月8日、アルゼンチンのラ・ナシオン紙に評論を書いた。
 「メッシは自身でボールを、試合を処理する能力がなくなったのではない。他の選手が対応し処理してくれるようにする能力が加わったんだ。これはマラドーナに共通する。最高の試合運びだ」(注1)
 折しも、去る12月9日対オランダ戦の前に、オランダ代表のファン・ハール監督は「(メッシは自分がボールを持っているとき以外はあまり参加しないので)アルゼンチン代表は10人でプレイしている」という嘲笑を浴びせていたという。
 メッシが試合中、トッポ・ジージョというイタリアの耳が大きいネズミのキャラの真似をしたのは「何もきこえないよ」(なんか言っているみたいだけれども、大きな耳しているけれども聞こえない、即ち、我関せず)という意味がある。以前、ボカジュニオルスチームのリケルメが行い、このオランダの監督との因縁があってのことである。
 また、アルゼンチンのPKの番のときに、オランダの選手が挑発的な発言をしていたことに対して、試合終了後のインタビュー時に「何言っているんだよ、お前、あっちへ行っちまえ」と発言した。これはSNS上でミームになり、この発言をプリントしたメッシシャツまで見られるようになった。(注2)

マラドーナ化か

 TYSスポーツTVは「奇跡だ!メッシがマラドーナ化している」と称えた。(注3)
 アルゼンチン人にとって、サッカーには上品なイメージはない。ピッチで罵声を叫び、観客席からの声援も同様だ。単に技術的なプレイだけではなく、荒狂う男たちの駆け引き、心理戦が行われる。
 その点でマラドーナは、才能に出自のハングリー精神を加え、サッカー技術だけではなく、チーム一人一人の心をつかみ、一体となって試合に挑んでいた。サッカーとは一人ではなく11人のチームプレイなのをよく知っていたからである。そして、個人プレイに陥らず、ブルチャガにパスをうまく送り込み、1986年メキシコW杯で栄光の優勝カップを高く持ち上げることができたのだ。
 メッシは13歳から、成長ホルモン不調の治療を受けさせてくれたFCバルセロナに所属し、ヨーロッパリーグで活躍。バロンドールを何度も獲得した。しかし、この長年のヨーロッパでの活躍が、アルゼンチン人がメッシを「お客様」として扱う雰囲気を作ってしまった。
 メッシはアルゼンチン人から、国歌を歌っていない、アルゼンチン人らしくない、アルゼンチン代表という士気がないという批判を受けた。メッシはどちらかと言えば内気な性格なので風当たりも強かっただろう。世の中が第二のマラドーナを探していたので、マラドーナと比べられるのは仕方のないことだった。
 マラドーナは幼い時からブエノスアイレス市パテルナル地区のアルヘンティノス・ジュニオルス少年部に所属し、プロリーグ戦のボールボーイでハーフタイムにリフティングをやって観客を沸かせるなど、正式にプロデビューする前から人気があったという。メッシに比べ、地盤の利があった。
 マラドーナはその後、ナポリで活躍するが、素行は褒められたものではなかったのはご存知の通りである。しかしながら、アルゼンチンの、そして世界のサッカー界でこの二人を分けて考えるのはなかなか困難である。

マラドーナはマラドーナのように、メッシはメッシになる日はいつか

 その辺の境界線は難しいが、メッシも今年で35歳。今カタール大会で活躍している若い選手は子どもの頃からメッシの活躍を見て育っている。このメンバーを率いてアルゼンチン代表を背負う姿はもはや今までのメッシではない。オーストラリア戦で決勝トーナメントに進んだ翌週、「これまでで最高のメッシ」とアルクッチ氏は評した。結果、苦しいオランダ戦でもベスト4に勝ち進んだ。
 私はアルクッチ氏とは、2002年日韓W杯でアルゼンチンからのスポーツ文化親善大使マラドーナ同行スタッフの一員として会って以来であった。先般、今大会前にいっしょにマラドーナを回想する機会を得た。その際、私が「マラドーナはマラドーナ」以外に評する言葉はないと話していると言ったら、彼は賛成してくれた。
 もちろん、記者会見で「ディエゴが空で見てくれている」と発言したメッシも、マラドーナを頼りにしているのは明確だ。(注4)
 メッシがマラドーナに近づかなければならないのか。メッシはメッシなのか。いつ頃「メッシはメッシ」と言える日が来るか、楽しみである。

注1)ラ・ナシオン紙「これまでで最高のメッシ」(https://www.lanacion.com.ar/deportes/futbol/el-mejor-messi-de-todos-los-tiempos-nid08122022/
注2)Qué mirás bobo, andá para allá(何見ているんだよ、あっち行けよ)のセリフを検索するとたくさん出てくる。一例(https://articulo.mercadolibre.com.ar/MLA-1278402691-remera-estampada-lionel-messi-que-miras-bobo-mundial-2-_JM?searchVariation=176071529367#searchVariation=176071529367&position=16&search_layout=stack&type=item
注3)TyCSportsにてバルダノが「メッシがW杯でマラドーナ化」とコメント(https://www.tycsports.com/seleccion-argentina/valdano-tras-la-clasificacion-de-la-seleccion-argentina-a-semis-messi-esta-maradoneando-en-el-mundial-id481754.html
注4)「ディエゴが空で見ている。両親と一緒に応援している頑張れリオネルと」はMUCHACHOSというアルゼンチン応援歌のフレーズ、応援団だけではなく選手も歌って士気をあげている(https://www.tycsports.com/seleccion-argentina/muchachos-ahora-nos-volvimos-a-ilusionar-letra-de-la-cancion-de-la-seleccion-argentina-id480849.html

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