《特別寄稿》犯罪者に寛大なブラジルの刑法=加害者の方に手厚いのはなぜ?=サンパウロ市  酒本恵三

ブラジルの刑務所の様子(参考画像・Thathiana Gurgel/DPRJ)

 下院議員ダニエル・シルヴェイラ氏に関する報道が最近、巷を騒がせている。シルヴェイラ氏は最高裁に対し度々暴力的発言を繰り返し、民主主義を攻撃したとして起訴され、最高裁は8年9カ月の実刑判決を出した。これに対しボルソナロ大統領は、自身の熱心な支持者であるシルヴェイラ氏を助けるため懲罰免除(indulto)の大統領令を出した。最高裁の判決にたてつくようなこの大統領の行為には、司法関係者からの猛反発が起きている。
 さて、我々一般国民からすると、もう少し身近な問題、早急に解決並びに改正が必要な犯罪に関する法律があるように思う。例えば次のようなもの。

1、刑事罰成人年齢(Maioridade penal)

 現在ブラジルでは、18歳未満は未成年とみなされ、どんな凶悪な犯罪を犯そうが、18歳未満であれば、捕まった後、少年院(fundação CASA)に送致され、一時的に監禁されるだけで、成人になるか又は一定決められた期間(凶悪犯罪の場合最高3年)が経つと「犯罪歴無し」(ficha limpa)で釈放される。
 近年、未成年による犯罪が多数発生し、凶悪化する中、成人年齢を16歳まで下げるという案が2015年に出されたが、なぜか議会で止まっている。
 賛成派と反対派の理由はそれぞれ次のようなものが挙げられている。(表1)

 反対派の意見の中で「ブラジル的だなぁ」と思うのは、意見3の「成人年齢を下げると、刑務所に入る犯罪者が増えるが、どこの刑務所も満員の状態なので困る」というものです。
 もっとたくさんの刑務所を作ればいいではないか、と言いたくなりますね。
 適用年齢の甘さを嘲るようにして行われた凶悪事件があります。ある若者が自身の18歳の誕生日を迎える前日に恋人を殺した事件です。こういう事件は調べると案外多いのではないでしょうか。

2、拘束補助金(Auxílio Reclusão)

 これは罪を犯した者が刑務所にいる間、その家族を養う収入が途絶えるので、政府から補助金がでるという制度です。この補助金をもらうためにはもちろんいろいろな条件を満たす必要があります。例えば最低1年間のINSS(社会保険料)を納めていることなど。
 さて、この制度には一見「ブラジルは、やはりキリスト教をベースとした慈悲の深い精神を発揮しているな」と感心させられますが、よく考えてみると、政府は加害者側には情け深く助けを出していますが、被害者側に対しては何の支援も考えていません。これではあまりにも不公平ではないでしょうか。

3、一時出獄制度(saídas temporárias)

 刑務所に監禁されている受刑者には、祝日には所外で家族などと一緒に祝日を祝うため一時出獄を許される恩恵があります。パスコア、母の日、フィナード、ナタール等に一週間ずつ外で過ごすことが出来、トータルで年間35日間までは許可されています。
 この制度で問題なのは、いつも一時出獄した人数の内、10数%の受刑者が戻ってこない事です。
 この事実はマンネリ化し最近ではニュースにもなっていませんでしたが、去年のリオのある刑務所の年末の一時出獄では、50%余りが戻ってこなかったというので、さすがに大きくニュースになっていました。
 この逃亡を最小限に抑える何かいい方法はないものでしょうか。
 私は次のような方法を提案します。
(1)この制度をなくす。
(2)ちゃんとした保証人がいる場合だけ、一時出獄を許可し、もし出獄した本人が逃亡した場合は、保証人が罰を受ける。
(3)電子足輪(Tornozeleira)をつけて出獄させていると思うが、どこに滞在し、どこに出かけるかを前もって登録させ、毎日1回ぐらいはその場所に警察官を派遣し確認する。
(4)近隣住民、又は近所の店などに監視を頼む。 

4、懲役減刑制度 (progressão de regime)

 この制度では、受刑者の刑務所内での品行がよければ(Bom Comportamento)刑の厳格レベルを和らげます。
 まず裁判官は犯罪者に対しどの制度(regime)で何年服役するかを決めて刑務所に送ります。厳しさは次の三つのレベルに分かれています。
【全監禁制度(Regime fechado)】
 受刑者は全期間を刑務所内で過ごす。もちろん働きたければ所内で働けるし、野外での日光浴(banho de Sol)もある。刑罰が8年以上の場合にかぎり採用される。
【半監禁制度(Regime semiaberto)】
 服役者は農作集団地(Colônias agrícolas)、工業集団地(Colônias industriais)、又は同様の施設で服役する。服役者は日中、外部で働き夜になると監禁施設に戻る。再犯者でなく、刑服従期間が4年から8年までのものに限る。
【全オープン制度 (Regime aberto)】
 放浪者収容所(casa de albergue)か他の適した施設、例えば服役者の自宅などに泊まり、日中は仕事などで外出可能、夜になると宿泊施設に帰る。対象は再犯者でないもので刑服従期間が4年以下の者に限る。
 減刑の割合や期間は初犯者か再犯者、犯罪の凶悪度により次のように決められています。(表2)
 一例を挙げれば、重犯罪を犯した者で10年の全監禁制度の刑罰を受けたものは、初犯者であれば2年半(25%)、再犯者であれば3年(30%)経つと半監禁制度に移れる可能性が出てきます。
 この表を見て感じるのは、ブラジルは犯罪者に対してなんと寛大な国であるかということです。軽重犯罪服役最低期間の割合などは16~30%と短かすぎると思いますし、再犯者はもっと厳しく期間を設定し、初犯者の倍ぐらいにしなくてはならないと思います。それに凶悪犯罪者の場合は刑をゆるやかにする必要すらないと思います。

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