「英雄」からの凋落止まらぬモロ

ネットでのモロ氏の風刺画像(Twitter)
ネットでのモロ氏の風刺画像(Twitter)

 「セルジオ・モロはブラジルの司法、政界史上最大の失望だ。あんな者を信じた自分が馬鹿だった」。5月、ブラジルを代表する映画監督ジョゼ・パジーリャはこう語った。
 パジーリャは2010年代後半、ラヴァ・ジャット作戦(LJ)の担当判事だったモロ氏を崇拝。その想いは2018年に世界的動画配信サービスであるネットフリックスでの連続ドラマ『オ・メカニズモ』制作にまで及んだ。パジーリャはドラマ内に登場するモロ氏をモデルにした判事役の人物を「英雄」として描いている。
 だが、モロ氏がボルソナロ政権の法相になるという、パジーリャにとって予想しなかった事態が発生。さらにヴァザ・ジャット報道や、モロ氏に有罪にされたルーラ元大統領の裁判無効などが重なり、同監督のモロ氏への幻滅は加速。先のドラマの続編もいつの間にか制作中断となってしまった。この例がモロ氏の「国を救う英雄からの凋落」を最も端的に表している。
 それにしてもこのところ、モロ氏自身の言動の不可解さが日を追うごとに深まっている。モロ氏は法相辞任後、LJ不正企業の債務担当だった米国の法律事務所に入り、同事務所から得た高額な報酬を悪びれず話して、世間から顰蹙を買った。
 さらには、パラナ州連邦判事時代から目をかけてくれ、政界入りにも導いてくれた政党『ポデモス』を平気で裏切り、大統領選に向け大政党である『ウニオン』へ移籍。だが、移籍先で大統領候補への選出を却下された上に、司法界の出身でありながらお粗末にも、転籍登録の住所をホテルの住所で登録し、聖州での選挙出馬さえ、危うくなっている。
 モロ氏の「おかしな言動」はまだ止まらない。今月2日、モロ氏はミナス・ジェライス州知事選でルーラ氏とシャッパ(連立名簿)を組む、アレッシャンドレ・カリル氏から「ルーラ氏を有罪にして選挙に出させなかった卑怯者」との批判を受けた。これに対しモロ氏は「ミナスに赴いて新しい政治運動を行う」と宣言。その運動を同氏は「共和国秩序組織運動」と名づけたが、これを頭文字読みすると「MORO」になる。世間からは「政治運動に自分の名前を冠するなんて、どれだけ自惚れているのか」との声が上がった。
 7日には、地域選挙裁が、ルーラ氏の所属する労働者党(PT)の訴えで、モロ氏が行ったホテル住所での選挙人登録の是非を審理し、登録無効の判断を下した。これに対しモロ氏は「PTの依頼などに応えるとは」と同裁を批判し、「私はブラジルをあきらめない」と、あたかも自身が大統領候補にでもなったかのような発言を行い、失笑を買った。
 モロ氏は聖州での出馬が難しくなり、郷里のパラナ州で上議選出馬を考え始めているというが、その場合、選挙で戦うのはかつての恩師、ポデモス党のアルヴァロ・ジアス氏になる。なんとも皮肉な展開だ。(陽)

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