ロライマ州ボアビスタの日系コミュニティの今=少数精鋭、尊敬される日系人 12=難民シェルター受け入れの実際

難民シェルターを案内してくれたジャロールさんと職員の方々
難民シェルターを案内してくれたジャロールさんと職員の方々

 ロライマ州といえば、ここ数年はベネズエラからの難民流入で話題となってきた。以前からベネズエラ人の住人はいたが、2018年頃から難民の流入が急増し、一時は1日に1000人が国境を越えてくるほどの事態となっていた。
 現在、ボアビスタ市の人口約43万人の内、約10%がベネズエラ人であり「街を歩けばどこにでもベネズエラ人を見かける」という状況である。住民は口をそろえて「ベネズエラ人が増えてから治安が悪化した」と話す。雇用が得られず、路上生活を余儀なくされているベネズエラ人の存在が体感治安を悪化させていることは事実だが、彼らにその責任を問うのは酷だろう。

ベネズエラ難民のブラジル内でのインテリオリザソン

 ロライマ州に集中するベネズエラ人をブラジル各地で雇用し、社会に内包していく取り組みを「インテリオリザソン(interiorização)」と言い、様々な企業やNGO、個人がインテリオリザソンに協力している。
 ボアビスタ日系人社会でも、避難してきたベネズエラ人を家政婦や会社の従業員として雇用しているケースは多い。ロライマ日伯協会元代表の福田美知恵さんの会社でも5人のベネズエラ人を雇用しており「人柄も良く、とてもよく働いてくれて助かっています」と話す。
 ロライマ州に流入したベネズエラ難民の支援には様々なブラジルの著名人も関わってきた。その一人がブラジルの企業家で億万長者の一人、カルロス・ウィザルド氏(パラナ州クリチバ出身)だ。同氏はフランチャイズ英語教室会社「GRUPO MULTI」の創設者でり、その他にも多くの事業を手掛けてきた人物である。
 カルロス氏は、ブラジルがコロナ禍になるまでの約1年半、ボアビスタ市内に滞在し、現地のベネズエラ難民の状況を調査し、能力のあるベネズエラ人を抜擢して、雇用。全国に展開する自身の事業を通じて就業機会を提供した。

日本政府も支援したベネズエラ難民のシェルター

 ベネズエラ難民をサンパウロから支援しているNGOにPDMIG(Pacto pelo Direito de Migrar)がある。その副代表のアブドゥルバセット・ジャロールさんは、ロライマ州にも同NGOを置き、インテリオリザソンの機会を模索する。 ジャロールさんの案内で、ボアビスタ市内に設置された難民シェルター(abrigo)の一つを訪れた。
 同市内には同様の施設が、先住民系ベネズエラ人用に4カ所、一般のベネズエラ人向けに7カ所ほど設置されている。
 2020年3月、日本政府は「ベネズエラ周辺国における避難民に対する緊急無償資金協力」を行い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じ、ブラジルではボアビスタで約1千世帯への非食料援助物資の配布、脆弱な人々へのシェルターの提供、避難民とホストコミュニティ間の融和促進のための社会的統合の支援を実施した。
 訪問したシェルター「アブリーゴ・サンヴィセンチ2」は18年に設置され、22年1月10日時点で162人が生活していた。シェルターの資材はヨーロッパから送られたもので、屋根には小型ソーラーパネルが設置されている。
 住人は3~5か月の居住が認められ、それが過ぎるとインテリオリザソンにより、ブラジル各地に準備された生活拠点へ送られる。同シェルターは国境なき慈善団体(Fraternidade Sem Fronteiras)が運営しており、生活環境は比較的安定している。
 食堂、診療所、子供の教室、駐輪場、菜園、台所、木工から縫製作業、アクセサリー制作所、生ごみからのガス(台所で使用)発生装置まで設置され、少しでも自立に向けた生活環境を整えている。(取材・執筆/大浦智子、つづく)

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