【連載】ロライマ州ボアビスタの日系コミュニティ=少数精鋭、尊敬される日系人(1)「ジャクシー」と呼ばれて

通称「プラッサ・ドス・イミグランテス(移民の広場)」(バヘット・レイチ広場)にある「モヌメント・アオス・ピオネイロス(開拓者のモニュメント)」
通称「プラッサ・ドス・イミグランテス(移民の広場)」(バヘット・レイチ広場)にある「モヌメント・アオス・ピオネイロス(開拓者のモニュメント)」
ANIR(ロライマ日伯協会)江田シロミル代表
ANIR(ロライマ日伯協会)江田シロミル代表

 「私はマクシーと日本人移民の子孫。両者をかけ合わせて『ジャクシー』と呼ばれています」と笑顔で話すのは、ANIR(ロライマ日伯協会)の江田シロミル代表(42歳、ボアビスタ生)だ。ブラジル最北の州、ロライマ州。その州都ボアビスタは、ブラジルの全州都で唯一赤道以北にある州都だ。そこに暮らす人々は、同地に暮らしていた先住民名に由来し、「マクシー」と呼ばれる。今回、ロライマ州の日系コミュニティとベネズエラ難民の状況を聞くため、ボアビスタを訪問した。
 空港まで迎えに来てくれたのは「日本とブラジルの関係強化」をミッションに掲げるANIRの江田代表。滞在期間中、興味深いボアビスタの様々な現地事情を紹介してくれた。江田代表はロライマ州にとっても現地の日系コミュニティにとっても、ボアビスタのパイオニア日本人移民の子孫として期待を寄せられている人物といえる。

ブランコ川にまつわる言い伝え

 サンパウロからボアビスタまでは、まず飛行機でブラジリアまで1時間半かけて行き、そこから乗り換えて3時間半かかる。現地の気候は、照りつける太陽の暑さがあるが、常時どこからともなく風が吹き抜け、マナウスの様な高温多湿地帯のイメージとは一線を画する。特に朝晩の風は清涼というほどではなくても、自然の扇風機が回り続けているよう。宵の刻、家族や友人が集れば、時が過ぎるのをつい忘れさせられてしまう、そんな気候だ。

 セントロ地区のプラッサ・ダス・アグアスは時に人々が冗談めかして「ミニ・ドバイ」と表現する。音楽を鳴らしながらカラフルにライトアップされた水しぶきをあげる噴水があり、その前でアサイを食べれば、夕方には熱帯とは思えないひんやりとした夕涼みができたりする。
 「リオブランコ川の水を飲んだ人は、もうほかの土地へ戻れなくなる」という言い伝えがボアビスタにはあるそうだ。来た人々を包み込む優しさが、確かにこの町の人や空気にはある。

敬意を表されている日本人移民

 ボアビスタの開拓起点となった市内を流れるブランコ川のほとりには通称「プラッサ・ドス・イミグランテス(移民の広場)」(正確にはバヘット・レイチ広場がある。そこには「モヌメントス・ドス・ピオネイロス(開拓者のモニュメント)」と呼ばれる巨大な石版彫刻があり、先住民とノルデスチーノ、カヌーに乗ったブラジル人家族、そして、かつてトレードマークだった大きな麦藁帽子をかぶった日本人移民の姿が表現されている。
 ロライマ州の人口は約65万人、約43万人がボアビスタに集住している。ANIRの江田代表によると、現在、ロライマ州には約140家族、約700人の日系人が暮らすという。ボアビスタには日系人が集住しているが人口比率ではたった0・16パーセントを占めるに過ぎない。

 しかし、町を象徴するモニュメントに、遠い異国から来た日本人が開拓者として描かれているというのは、いかにこの地で日本人移民とその子孫が敬意を表されているかをうかがえる。ロライマ州に日本人移民が公式に入ってから今年で67年を迎える。(取材・執筆/大浦智子、つづく)

(※この特別寄稿は、ANIR(ロライマ日伯協会)の江田シロミル代表、福田美知恵さん、PDMIG- Pacto pelo Direito de Migrar副代表のアブドゥルバセット・ジャロールさん他、ロライマ州ボアビスタの多くの皆様のご協力で実現しました)

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