連載=ロライマ州ボアビスタの日系コミュニティ=少数精鋭、尊敬される日系人 4=軌道に乗った建設資材店

江田シロミルANIR代表、夏夜さん、夏夜さんの娘(手前左から)とカステロン従業員たち(カステロンにて)
江田シロミルANIR代表、夏夜さん、夏夜さんの娘(手前左から)とカステロン従業員たち(カステロンにて)

 夏夜さん家族も4年の契約を終えてボアビスタに移り、当時は全く現地になかったレタスやネギなどの野菜、ブラジルで食べられているコウベ(ケール)やフェイジョン(大豆)などを作り、市場で販売した。3年後には貯めたお金で土地を買って野菜を作り続けた。やがて、その土地には大通りも敷かれ、今では大変立地条件の良い場所に変化した。
「人間、大変な時は一生懸命やるのよ」
 夏夜さんはボアビスタに来てから、日中は両親の仕事を手伝いながら市場で作物を販売し、夜学の高校に通った。1980年には、パラー州トメアス出身の関四郎さんと結婚し、同州カスタニャールに移り、3人の子供を授かった。
 1981年には、夏夜さんの弟がボアビスタで今日の3店舗の基礎となる建設資材店を創業し、同業界のパイオニアとして事業は軌道に乗った。夏夜さん夫婦もカスタニャールからボアビスタに戻り、弟の事業を手伝い始め、分家して一店舗の経営を担うことになり、今日に至っている。
「結果的には家族でブラジルに来たのは良かったと思います。家族仲も良く、日本人同士で助け合って生きてこられたし、日本政府やJICAの援助もあって立派な日本人会館もできました」
 移民当初に遭遇した困難も自然体で受け入れ、喜びも悲しみも同じ体温で消化するような夏夜さんの空気感が、目の前の人をほっとさせてくれる。
「ロマイマ州のブラジル人は素朴な人が多く、日本人をとても尊敬してよく受け入れてくれました。日本人の子孫たちも皆よく頑張って、社会的にも良い仕事に就くことができ、高く評価されています。日系人同士のつながりも強く、とてもよく助け合っています」
 ANIR(ロライマ日伯協会)でも資金が足りない時、日系人農家から野菜などの寄付を受けて、婦人部がヤキソバを販売して活動資金をねん出し、夏夜さんも台所に立ってきた。
 夏夜さんの母モヨさんは今年で92歳になる。モヨさんは10年前までは『カステロン』でビジネスの決定も下していた。今も頭脳明晰だが、体は自由に動かなくなり、夏夜さん家族に見守られながらNHKを観るのが毎日の楽しみになっている。
 モヨさんも夏夜さんも家では日本食を作る。ボアビスタ市内には日本食や東洋食品の専門店はないが、最近は一般のスーパーの一角にも日本食品が以前より販売されるようになり、便利になったという。うどんや五目御飯、いなりずし、天ぷらが好きでよく作り、「時期によってはらっきょうも販売していますよ」と話す。
 夏夜さんの一番の願いは、「いつも周囲の皆が元気でいてくれること」である。(取材・執筆/大浦智子、つづく)

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