在住者レポート=アルゼンチンは今=相川知子=4=世代を超えてニッケイをつなぐもの=ご飯から流行のSUSHIへ=(前編)

カワイイクラブカフェが日本産食材サポーター店に認定

日本食材サポーター店認定書を受け取る勢禮(せれい)アナさん(左)とJETRO西澤裕介所長(相川亜海撮影)

 去る2月16日午後、JETROブエノスアイレス事務所の西澤裕介所長(2020年10月就任)は、勢禮アナ氏経営の日本を体験できるテーマ喫茶店Kawaii Club Café(カワイイクラブカフェ)を訪れ、2021年12月29日付け農林水産省が定める『日本産食材サポーター店制度(注0)の認定団体』として認定証を授与した。
 JETROは南米ではブラジルで2018年に認定事業を開始。現在、ブラジルの認定飲食店は72軒、小売店は130軒の合計202軒で、世界68カ国8074店舗(2022年1月31日現在)の中で第9位を占める。
 アルゼンチンでは2021年4月から認定を開始し、昨年12月末現在、1年間で15軒を認定した。カワイイクラブカフェを経営するアルゼンチン生まれの勢禮さんは「祖父母並びに父の代、そして在アルゼンチン日系社会伝統の喫茶店経営を元に、祖父母の味を通じて日本食を普及してきた努力が報われた感じ。これからも積極的に日本の食文化をアルゼンチンの人達へアピールしていきたい」と話した。

 同時に認定されたHanami Eventos を通じて、勢禮さんはイベント会社を夫の玉城ヘルマンさんと共に経営し、15年の経験がある。自宅と併設するスペースは県人会会合に利用されたり、トーカチと呼ばれる米寿祝い他の誕生日や、さらにアルゼンチンビジネスクラブ初め日系関係者のセミナーやイベントなどにも利用されていた。
 だが、コロナ禍でイベント系は禁止され、全く行えなくなった(2021年11月より本格的に再開)。スペースが文字通り宙に浮いたので、そのピンチをチャンスに変えた好例である。
 カワイイクラブカフェはコロナ禍2年目2021年4月開店し、途中一次閉店制限に遭ったものの、日本のテーマパークのような店内のデザインとお菓子、例えばどら焼きやタイ焼きなどはインスタ映えし、また健康ブームから日本食材を求める人でフォロワーを確実に増やし、人気を高めてきた。
 また、コロナ禍の産物で予約制のため安全性が高いことから、中高生の親が子どもを預けて迎えに来る、安心できる場所として信頼が寄せられている。

代々受け継がれた「家族の味」

 アルゼンチンでは元々、日本アニメや日本文化人気が高まってきていた。それに加え、コロナ禍で日本食関連動画サイトやネットフリックスなどでも食をテーマにしたものが多い上、アニメで見たものが食べたいというトレンドが後押しをしている。
 元々、関心が高かったのは、次のような歴史的基盤があるからだ。
 実はオーナーの勢禮アナさんの祖父が1940年代から経営する市内(Libertador 308 esquina Esmeralda)にあるカフェ・トゥリパンという喫茶店を手伝うため、1950年父が来亜した。当時レティロ地区にあった花市場の日本人花卉栽培協同組合の事務所は同喫茶店にあり、1971年に洗濯屋に事業替えするまで続いた。
 祖母の用意するどら焼きや沖縄菓子のコンペンなどは学校帰りのおやつに楽しみであったし、家に誰かがたくさんいるのが日常であった。その味は母に受け継がれ、現在はアナさん、そして娘のナオミさんをはじめ、3人の子どもたちにも受け継がれた。
 メニューを考え2021年から家族総出で店をやり、順調になると人を増やすのは日系にこだわった。一方、夫の玉城さんは建具屋であり、アイデアマンでデジタルツールを使いこなし、ウエブサイトやメニューを作成し、アプリで注文を自動化することを導入した。若いスタッフは難なく機能をすぐに使いこなしている。
 アナさんは「次世代の日系の若者の雇用の場や経験の場としたい」というとおり、20歳以下のスタッフに慕われており、お薦めメニューはおにぎりと口をそろえる。

日本語より、ご飯がつなぐ日系アイデンティティ

 筆者は1997、98年、広島県主催国際青少年交流アルゼンチン代表引率の任務を遂行した。広島に集結したカナダ、ハワイ、南米各地の日系の子どもたちは小さくて好き嫌いもあったが、一同喜んで食べるのがご飯、白米であった。日本語が上手な子や苦手な子もいたが日本語が結ぶのではない、日系人のアイデンティティは言葉よりもむしろご飯ではないかと思われた。
 もちろんGOHANと言っても白米自体のことであり、また食事の総称ということを認識していた。そしてご飯を食べていれば平和におとなしくしていた。そして、アルゼンチンの人の間でもご飯を使ったその代表格の食品、アルゼンチンでは寿司というよりむしろSUSHI が人気である。(注3)
 1990年代、アルゼンチンはコンバーティビリティプラン経済政策でドルとペソの価値が一対一であった。外国へ行くことが容易になり、特にフロリダなどでSUSHIの味を知った人が多かった。流行に乗るためのハイクラスな食べ物ということでSUSHIを発泡ワインと食するブエノスアイレスの政治シンクタンクSUSHI CLUBがあった。
 当時の政治家デ・ラ・ルアの息子アントニオ・デ・ラ・ルア(注4)を中心に政治シンクタンクグループが形成されたことから、SUSHIの地名度は大きく上がった。
 もちろん、のりの黒さがグロテスクで嫌われたので、ウラ巻にアボガドを入れたカルフォルニアロール、そして折しもチリでのサーモン養殖の拡大の時期と合致し、フィラデルフィアチーズとのコンビ、そしてアルゼンチンでのスシブームが到来した。
 2000年までは昔ながらの寿司であったのが、当時あったレストラン森園やSENSUは、非日系いわゆる外国人向けのSUSHI店に転身し、アルゼンチンの普通に存在する食の選択肢として特にデリバリー界で大きな位置をしめるまでに発展した。

「いちそう」は兄が継ぐものと思っていたらヨーロッパへ移住すると、加納アレハンドラさんが急きょ学び板の前に立つことになった。2022年2月農林水産省の日本食親善大使の称号を受けた。お母さんもお祖母さんも、同じものをたまに自分のスタイルを加えたりするけれども、いつも同じ物を作る魔法があるのよ、と微笑んだ。

デリバリー人気2位に

 2015年ごろには、ピザ、エンパナーダ、名物の肉料理のアサード以外にお寿司が台頭し、17年には2位。その後、統計によっては1位になったこともある。どちらにしてもデリバリーを頼む層の人は、週に一回は注文しているそうだし、ネットで作り方も普及している。折しもこれはドラゴンボールやセーラームーンを見て育った世代が成長した時期と合致する。
 そのため、困っているのは著者が配達注文するときには「海苔は外に巻いてね」とわざわざ頼まなければならないのを忘れないようにすることだ。(注5)のりが外側にあるのはスタンダードなSUSHIではない、ふしぎな世の中になってきた。
 次回はこのニッケイをつなぐご飯のため、アルゼンチンの日本米のルーツを中心に日系社会の食生活をお届けしたい。


「いちそうICHISOU」
Venezuela 2145
Tel:4942-5853
月曜日定休


※注0=2021年12月29日付けでrestaurante Fujisan, Nobiru Izakaya, Hanami Eventos がkawaii club cafe に続いて認定された。

※注0=「日本産食材サポーター店認定制度」は、日本国外にある日本産食材・酒類を使用しているレストラン・小売店を「日本産食材サポーター店」として認定するもの。日本産の農林水産物・食品の発信を強化するために行われている。

※注1=JETROは農林水産省の「海外における日本産食材サポーター店の認定に関するガイドライン」に定める運用・管理団体である。中南米はブラジル、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、パラグアイ、チリ、コロンビアの中南米7カ国 合計で飲食店226軒、小売店192軒の合計 418軒を2022年1月31日現在認証している。世界では8074店舗にのぼる(https://www.jetro.go.jp/ext_images/agriportal/supporter/data_220131.pdf

※注2=2017年アルゼンチン人がデリバリーで注文するものの統計で初めて2位に躍り出た。
エンパナダ 22%
スシ: 13%
ピザ: 10%
ハンバーガー: 9%
ミラネッサ: 7%
アイス: 7%
チキン: 4%
中華料理: 4%
パスタ: 3%
サンドイッチ: 3%
https://www.clarin.com/sociedad/web-portenos-encargan-sushi-pizza-milanesas_0_S1_RBX77Z.html)。現在は一般に週に一度注文しているか食べに行っているのが普通である。

※注3=寿司と書くと日本の通常の寿司で、SUSHIとローマ字で書けば現地スタイル寿司の意味。

※注4=アントニオ・デ・ラ・ルアは広告宣伝マンで、今でいうインフルエンサーであった。コロンビア人歌手シャキラの恋人でマネージャーになったが、その後別れ、また元ミスワールドでコロンビア人歌手フェルナンダ・ラモスとパートナーでまた別れている。

※注5=一説によるとロールはウラ巻きで、HOSOMAKIかMAKIと言えば外に海苔をつけてくれるようだ。

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