
ナンシー関ヶ原さんは昨年3月にプロポーズを受け、5月にブラジルに駐在する「彼」と一緒に日本の反対側にあるサンパウロへ渡った。事前の心構えもほとんどないまま始まった新生活。彼女がインスタグラムを始めたのは、日本に残る家族に自身の無事を伝えるためだった。それが何と大反響を呼び、約1年後の7月3日、漫画本『Eu sou ORAN um diário da vida no Brasil わたしはオラン―ブラジル生活日記』として当地で刊行、出版パーティーを開くことになった。
インスタグラムやTikTokで発信してきたこれまでの漫画を、ポルトガル語と日本語で読み比べられる仕様になっている。
関ヶ原さんは愛知県出身。日本でも漫画を描いていたが、ブラジルでも日々の生活漫画をインスタグラムに投稿していたところ、「今はTikTokの時代だよ」と妹から言われ、TikTokに投稿し始めた。途端にブラジル人のフォロワーが増え、ポルトガル語でも投稿してと言われ、ポルトガル語でも発信したところ、昨年10月に大手新聞「Estadão」に記事が掲載された。
今やTikTokは18万人以上、Instagramはポルトガル語版は4万人以上、日本語版は1万人と計23万人近くのフォロワーを持つ。
ポルトガル語での発信当初は翻訳機能に頼っていたが、フォロワーからの助言を受けて少しずつ表現が上達。先生について本格的に学び始めている。現在の居住地はサンパウロ州カンピーナス市。サンパウロ市と異なり日系人が少ない地域で、ポルトガル語を使う機会が格段に多い。結果として語学力の向上にもつながっているという。
印象的なのは、ブラジル人フォロワーからの圧倒的な反応だそうだ。コメントの数も多く、インスタを通じて「まるでブラジルにもう一つの家族ができたような気持ちになる」と関ヶ原さんは語る。ブラジル人は日本に対する関心が高く、彼女の投稿内容にも強い興味を示してくれることが、発信のモチベーションとなっている。
一時帰国した際、家族と話すと「いつもインスタグラムを見てくれているので、こちらがブラジルのことを話しても『もう知っているよ』という感じでみんな驚いてくれないので、『もっとびっくりしてよ、もっと聞いてよ』と思うこともあった」という。

当地での生活にもすっかり馴染み、「サンパウロは気候が良くて過ごしやすい。果物が大好きなので、フルーツ天国のブラジルにいるのが幸せ」と笑顔を見せる。ジャブチカバ(ブドウに似たフルーツ)を50粒食べてお腹を壊したという微笑ましいエピソードも。マモン(パパイア)は腸内環境に良く、マラクジャ(パッションフルーツ)は精神安定に良いと聞いて以降、心が落ち着く気がすると信じて食べているとか。
「誰かを感動させようと思って始めたわけではなく、家族や友人に安心してもらいたかっただけ。それでも〝気にしてもらえる〟こと自体が嬉しい」と語る関ヶ原さん。生活レベルが「〝オラン〟ウータン」ということから、漫画では自身を「Oran(オラン)」と呼び、オランウータンのキャラクターを使っているが、実際はストレートな黒髪がきれいなとてもかわいらしい女性だ。
漫画に出てくる夫である「彼」も、実際に話すと、関ヶ原さんを大切に思っているのが伝わる優しい男性だった。なお、ペンネームの「ナンシー関ヶ原」は、関ヶ原さんの母親が名付けたそうで、「消しゴム版画家」の「ナンシー関」さんを連想させるユニークな名前として気に入っているそうだ。
漫画は、iPadの「Procreate」というアプリを使って書いており、ブラジル日報へもオリジナルイラストを描いてくれた。
SNSでの発信を通じて、音楽家の島田愛加さんや、ブラジルでビューティーサロンを営むMIZUKIさんなど、さまざまな人との縁も生まれ、本の出版にもつながった。自身の経験をユーモアと温かさで発信し続けるナンシー関ヶ原さん。彼女の漫画は、初めの目的であった「家族への無事を伝える」、ということからブラジルと日本をつなぐものへと大きく発展していっている。本の購入はオンライン販売サイト「devir, poesia e prosa」(https://x.gd/GvxFT)から。