《記者コラム》日本は原発より地熱発電の推進を=ある意味、震災の弔い合戦では?

阪神・淡路大震災で阪神高速道路が崩壊し、転落しそうになった観光バス(野田知明, via Wikimedia Commons)

日本人にとり地熱発電はある意味、弔い合戦では

 最近、能登半島地震や台湾地震はもちろん、環太平洋のあちこちで地震が起きているニュースに接して思うことがある。
 コラム子が生まれた静岡県東部の人の多くは、お隣神奈川県の箱根大涌谷を家族や友人と訪れ、もくもくと上がる水蒸気や硫黄の臭いに圧倒されながら温泉卵を食べた経験がある。あのマグマのエネルギーを温泉や卵をゆでるのに使うだけでは、もったいない。どうして地熱発電に使わないのかと。
 原子力に依存する限りウランはいつか枯渇するし、大地震が起きるたびに原発の近くの住民はヒヤヒヤだ。それに、影響が弱まるまでに約10万年もかかる放射性廃棄物をどこに処理するかに常に頭を痛める。
 火力発電の場合は、燃料を常に輸入に依存するから、為替変動や戦争勃発などでコストが劇的に変化する危険性があり不安定だ。
 そんな不安要素が多い発電方式より、マイナスの自然条件「地震」、それを起こすパワーを味方に変えるという逆転発想の方が日本人らしいと思う。それに、地震を起こすマグマを「味方に変える」のは、ある意味、日本人とっては〝弔い合戦〟ではないか。
 この100年余りで起きた震度7クラス以上の「震災」と呼ばれるものだけで、関東大震災(死者・行方不明者は推定10万5千人)、阪神・淡路大震災(犠牲者6434人)、新潟県中越大震災(68人死亡)、東日本大震災(死者・行方不明者2万2318人)などがあり、計13万人以上が亡くなっている。そして、今後も南海トラフ巨大地震がおきる可能性が常にささやかれている。
 天災は天災であり、どうしようもない部分がある。起きることは仕方ないとしても、尊い命の犠牲を無駄にしないためにも、地震の原因であるエネルギーを「使いこなす」発想や工夫があってもいい。そうすれば、マグマは天恵になりうる。もしも富士山の地下に眠るマグマを、人間が利用できるエネルギーに変えられれば、大自然から無限のパワーを戴くことになる。

世界3位の豊富な地熱資源量を捨てている現実

地震のおきる仕組み(仙台管区気象台サイト)

 「地震のおきる仕組み」(1)によれば、地中深くのマグマの対流によって地表付近の岩盤プレートがゆっくりと引きずられて他のプレートとのずれが生じ、その歪みを直すために定期的に地震が発生する。
 特に日本列島は四つの地盤プレートのはざまに位置するという、世界的にもまれな地質環境に置かれている。それゆえに巨大地震に襲われる宿命的な地理環境にあるが、その〝宿命〟を逆に活かせるのが「地熱発電」だ。地下のマグマだまり近くにある地熱貯留層にたまった水蒸気を取り出して発電する方式だ。
 資源エネルギー庁サイト「豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電」(2)によれば、《日本は世界第3位の豊富な地熱資源量を持っており、地熱発電のポテンシャルが非常に高い国です。地熱発電は、CO2排出量がほぼゼロで、持続的に発電が可能な再生可能エネルギーであり、天候などの自然条件に左右されず安定的に発電できる「ベースロード電源」でもあります。また、発電に使用した熱水がハウス栽培などに利用できるなど、地域経済へのメリットもあります》と要点がまとめられている。

主要国における地熱資源量及び地熱発電設備容量。日本は堂々の世界3位(資源エネルギー庁サイトより)

 図表「主要国における地熱資源量及び地熱発電設備容量」にある通り、世界でも米国、インドネシアに次ぐ地熱資源量2347万キロワット(kW)を保有するにも関わらず、わずか61万kW(2・6%)しか活用していない。
 2016年8月6日付サステナブル・ジャパン記事(3)によれば、1998年度以降は地熱発電に関する政府予算が徐々に削減され、停滞したという。2016年時点で日本全国18の地熱発電所で生産されている電力量は、日本の総発電量のうちわずか0・025%を占めているにすぎない。
 これほどモッタイナイことがあるだろうか――。1世帯あたりの平均電力が3kW(100V×30A)だと仮定すれば、782万2551世帯の電力をまかなえる。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2020年の一般世帯総数は4885万世帯(4)なので6分の1にもなる。

原子力に比べて安全でコストも悪くない

資源エネルギー庁サイト「原発のコストを考える」にある発電方式によるコスト比較

 さらに「究極の地熱発電」と呼ばれる、より地底深くにある高温マグマ水を直接利用して発電する「マグマ発電」なら、もっと大規模な発電ができる。この分野の研究にもっと投資してもいい。
 これに関して先述の資源エネルギー庁サイトには、こう書かれている。《革新的な「超臨界地熱発電技術」の開発も試みています。この技術では、従来よりもさらに地下深く、マグマに近い部分にある超臨界状態の熱水資源(温度、圧力により「超臨界状態」、つまり液体と気体の区別がつかなくなっている水)を活用することで、これまでよりも大規模な発電が可能になります》
 ただし、マグマ発電は技術的な課題が山積みで、開発には巨額投資が必要になる。同サイトにも《超臨界地熱資源は、超高温・超高圧であることに加え、酸性濃度が高いといった特徴があるため、井戸やタービンなど設備の腐食対策や、大深度の掘削技術を確立する必要》がある。
 だが2018年5月17日付東京新聞記事(5)によれば、原発新設にかかる費用は「1基4400億円」と言われていたが、原発メーカーや商社によると実際には倍の「1兆円以上」になっていると報じられている。
 原発数基分の開発費用をかけるのであれば、地熱発電に関わる研究は十分に可能ではないか。
 それにランニングコストの経済性も、資源エネルギー庁の「原発のコストを考える」(6)にある「発電コストを比べてみよう」項のグラフを見れば一目瞭然だ。太陽光、石油、風力発電などと比べても地熱発電はランニングコストが安い。燃料費がかからず、CO2も出ず、放射性廃棄物もない理想的なエネルギーだ。

地熱発電が進まない理由

 地熱発電の開発が進まない阻害要因について、国立国会図書館の報告「地熱発電の現状と課題(近藤かおり著)」(7)は、自然公園法と温泉法の問題を指摘する。
 同報告には「課題」として《地熱資源は火山帯にあり、その位置は偏在している。地熱発電を行う上では、一定規模の地熱貯留層が形成されていることを前提として、熱水・蒸気を地上に取り出せる条件が整っていることが必要となり、立地場所や発電規模の面での制約がある。
 また、地熱資源の賦存(註:理論上、潜在的に存在すると算定されている資源のこと)する地域は、温泉地域や自然保護地域とも重なる。地熱貯留層は地下の深い所に形成されており、比較的浅い所に形成される温泉帯水層とは位置が異なるものの、温泉事業者は、地熱貯留層からの蒸気・熱水の採取が温泉帯水層に与える影響について懸念して、地熱発電開発に反対することが多い。

アイスランドでは電源構成に占める再生可能エネルギーの割合が100%で、うち7割が水力、3割が地熱発電。同国最大の地熱発電所、Nesjavellir発電所(Gretar Ívarsson、via Wikimedia Commons)

 また、蒸気・熱水に含まれる硫化酸化物等の不純物が生産井や還元井に付着することで発電能力の減衰が生じるため、運転開始後も新規の井戸を継続的に掘削しなければならない上に、硫化水素による植生への影響も懸念されることから、自然保護上問題であるとの指摘もある。
 自然公園内における開発規制、温泉事業者の反対等が、開発の停滞要因として指摘されている。地熱開発を進める上での課題として、自然環境・景観との調和、温泉との共生、環境影響評価の効率化、事業の採算性等が挙げられる》と指摘されている。
 だが、電力資源は背に腹は代えられない根本問題だけに、日本国民が声を大にして政治家と企業を後押ししていけば、不可能なことではないのではないか。

電力構成の93%が再生可能発電のブラジル

 たとえばブラジルでは自然の恵みを最大限に活かした電力構成をしている。元々7割が水力発電だったが、最近は風力や太陽光が急増して今では93%が再生可能発電となったと報じられている(8)。日本も自らの自然環境を最大限に活かした形で発電できれば、原子力や火力発電に頼らないでもすむエネルギー自給体制が作れるのではないかと思う。
 同報告は、《地熱資源量に恵まれているにもかかわらず、日本で地熱発電の導入が進まなかった背景として、地球温暖化対策の主要施策として、国が原子力発電を推進してきた点も挙げられる。ベースロード電源として位置付けられてきた原子力発電の推進を優先させた結果、競合する地熱発電の開発が停滞したとの指摘もある》と指摘する。
 原発開発に利権を持つ一連の企業群にとっては、クリーンで経済的な地熱発電は邪魔なものかもしれない。だがその結果、福島原発の悲劇が起きた。あれで「スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマ」と世界的に並び称される悲しい時代が始まった。そこから抜け出す解決策として、もっと地熱発電は注目されるべきだろう。
 同報告はさらに《火山の多い日本は、自然災害と向き合うことは不可避であると同時に、火山の恩恵の一つとして地熱資源に恵まれている。電力の安定供給と地球温暖化対策に寄与する潜在力を持ち、原子力発電の代替電源ともなりうる地熱発電の持つ意義は大きい。地熱発電の活用についても、長期的観点から一貫した導入施策が求められよう》と締めくくっている。まさにその通りだ。
 もしかして、地中深くのマグマ活動をより近くから定点観測することで、地震予知分野にも新展開が生まれる可能性もあるかもしれない。
 日本の皆さん、自分の足元をいま一度見つめ、原子力を冷静に分析し直し、地震大国を「地熱大国」に変える方向に発想を転換するのはどうだろうか。(深)

(1)https://www.jma-net.go.jp/sendai/knowledge/kyouiku/eqvol/a_jisin_ws.pdf

(2)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energykihonkeikaku2021_kaisetu04.html

(3)https://sustainablejapan.jp/2016/08/06/geothermal-energy/14372

(4)https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/Hprj98/NL_gaiyo.html

(5)https://www.tokyo-np.co.jp/article/236091

(6)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.html

(7)https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8842539_po_0837.pdf?contentNo=1#:~:text=はじめに-,地熱発電は、地球温暖化対策や電力の,位にとどまっている。

(8)https://www.brasilnippou.com/2024/240203-17brasil.html

最新記事