
仏政府は、南米の仏領ギアナのアマゾン熱帯雨林内に、最高警備レベルの刑務所を建設する計画を進めている。施設は、かつての流刑地跡に近接するサンローラン=デュ=マロニに建設され、2028年の開所を目指す。総工費4億5千万ドルを投じて建設される施設の収容能力は最大500人で、そのうち60人分の別棟は、麻薬密売組織の幹部やイスラム過激派など特に危険視される受刑者向け。これに対し、現地住民や地方当局は「仏本土からの危険人物の押し付けであり、歴史への侮辱」と強く反発していると20日付G1など(1)(2)が報じた。
仏紙『ル・パリジャン』によると、同施設の管理体制はイタリアの反マフィア法に基づく制度に着想を得ており、対象受刑者は厳格な隔離措置のもと、面会は極めて限定的に制限され、施設内では定期的捜索が実施される。24時間体制の電子監視に加え、携帯電話やドローンの通信を遮断する装置も導入され、脱獄や外部との接触を徹底的に防ぐ構えだ。
ジェラルド・ダルマナン仏司法相は「この施設の隔絶された立地は、麻薬密売組織の首領らをそのネットワークから遮断することを可能にする」と述べ、建設意義を強調した。
一方、今回の発表が仏政府からの正式な説明を経ることなく、報道で地元に伝えられたことが、強い反発を招いている。仏領ギアナ準地方自治体(CTG)の議長代行ジャン=ポール・フェレイラ氏は、「2017年に締結された協定では、過密状態にあるレミール=モンジョリーの刑務所の負担軽減を目的とした施設建設が定められていたが、今回のような本土の過激派や組織犯罪関係者の受け入れは合意されていない」と主張。「我々が本土の治安リスクを一方的に引き受けることは到底容認できない」とする声明を19日、SNS上で発表した。
仏領ギアナ選出の国民議会議員ジャン=ヴィクトル・カストール氏も、「本件は我々の歴史に対する侮辱であり、政治的挑発であり、植民地主義への回帰だ」と厳しく批判。政府に対して計画撤回を強く求めている。
仏領ギアナは、フランスの海外領土の中で最も高い犯罪発生率を記録しており、23年には10万人あたりの殺人件数が20・6件と、全国平均の約14倍に上った。特にサンローラン=デュ=マロニは、スリナムおよびブラジルとの国境に近く、コカインの密輸ルートとしても知られる。
建設予定地の周辺には、19〜20世紀半ばに政治犯らが収容されていた旧流刑施設「サンローラン=デュ=マロニ流刑キャンプ」が存在する。同施設は仏人作家アンリ・シャリエールによる自伝的小説『パピヨン』や、その映画化作品の舞台として知られる。無実の罪で13年間の刑務所生活を強いられた実話に基づく小説だ。
かつて「悪魔島」に象徴されるような過酷な監獄制度の歴史を持つこの地に、再び国家による隔離監視施設が建設されることに対し、地元では歴史的トラウマを想起させるものとして根強い懸念が広がっている。