1899年から14年間、神戸の在日ポルトガル領事館の総領事などを務めたヴェンセスラウ・デ・モラエス(リスボン生れ、1854―1929年)は軍人、文筆家としても知られる。著書には『おヨネとコハル』『日本精神』『徳島日記』などがあり、芸者おヨネと共に暮らし、彼女の死後は職を辞して、ヨネの故郷である徳島市に移住。ヨネの姪であるコハルと暮らすが、やはり先立たれる。徳島ではスパイの嫌疑をかけられ、「西洋乞食」とさげすまれたこともあり孤独のまま同地で亡くなった。作家・新田次郎の絶筆はこのモラエスを取り上げた小説『孤愁 サウダーデ』だった。その次男で数学者の藤原正彦が父の取材の道筋を追体験し『父の旅 私の旅』として出版した。そんなモラエスに惹かれた中田みちよさんが今年わざわざポルトガルを訪れ、モラエス足跡を辿り随筆を寄稿したので、ここに掲載する。(編集部)