「移民事業は失敗だったと落胆したまま親父は死んだんです。百周年でブラジル社会、日本社会からあのような賞賛が寄せられたことを、まず母親に伝えたかった」。〃ブラジル移民の祖〃水野龍(1859―1951年、高知)の息子、龍三郎(80、二世)の語る父親像は衝撃的な内容だった。笠戸丸移民からお金を借りて返さなかった人物としての悪評が一人歩きしたあまり、ブラジルへの移民事業を創始した大功労者でありながら、今までその実像に焦点が当てられず、正当な評価がされないまま歴史の闇に葬り去られようとしていた。いったいどんな人物で、なぜブラジル移民を始めたのか? その妻・万亀(まき)の知られざる貢献とは。そして明治維新のどんな部分からブラジル移民という流れは生れたのか。60回目の命日となる14日を機に、〃偉人〃というにはあまりに過激な水野龍の生涯に改めて迫ってみた。(深沢正雪記者)