《記者コラム》ヴィニシウス!負けるな!=差別騒動は認められた証し

レッドカードが取り下げられ、24日の試合にも出られると報じる23日付UOLサイトの記事の一部

 スペインのサッカーリーグで21日に起きた、ヴィニシウス・ジュニオル(レアル・マドリッド所属)への人種差別的な野次とそれに続く退場処分が世界的な問題となっている。
 ブラジル人選手が人種差別的な野次の標的となる事件はこれまでも何度となく起きているが、今回は、被害者のはずの彼が退場処分まで受けたこともあり、問題がより大きくなった。
 この件ではルーラ大統領やフラヴィオ・ジノ法相らが同リーグへ抗議し、他国の首脳らも人種差別行為を批判した。リオ市ではキリスト像の照明を1時間消す抗議行動も行われた。
 ヴィニシウスへの連帯を示す声は広がる一方で、23日には退場処分の取り消しと相手チームへの罰金なども言い渡された。
 一連の動きは人種差別に対して人々がこれまで以上に敏感になっている証拠であり、人種差別には明確に対峙しようとする姿勢の表れだ。
 そして、ヴィニシウスという選手が国際社会に認められている証拠でもある。もしこれが名もない選手だったら、野次さえ飛ばないし、世界中が注目することもない。才能があり、彼が活躍すれば自分達が応援するチームが不利になると思うから、野次を飛ばして激昂させ、プレーを狂わせようとするのであり、サッカー自体とは無縁の彼のダンスパフォーマンスまで批判したりするのだ。
 また、彼が簡単には圧力に屈しないことも彼に対する人種差別的な発言や行為をエスカレートさせてきた原因だ。幼い時から才能を認められる一方、人種差別にも苦しんできた上、憧れのチームでプレーしているのだから、容易には膝を折らない。それは彼が「最後まで戦う」と宣言していることでも明らかで、レアル・マドリッドも彼を支援し続ける姿勢を明確にした。

サンパウロ市のスペイン総領事館前で起きた人種差別に対する抗議行動(23日付UOLサイトの記事の一部)

 通常なら、政治やスポーツの話はコラム子よりも通の執筆者に任す。だが、監督交代もあって昨シーズンから目を見張る活躍を見せるヴィニシウスが、現在のように頻繁に人種差別的な発言や行為の被害に遭っている状況が、「サタンは本物の信仰を持つクリスチャンをこそ試す」という聖書の原則と重なるように思え、あえて取り上げた。
 18歳で憧れのレアル・マドリッドの門をくぐってからも、決して順風満帆ではなかったヴィニシウス。だが、彼が頭角を現したことで、人種差別的な発言や行為が激化した。出る杭は打たれるではないが、人の嫉妬深さや劣等感の裏返しの攻撃も多いことを考えると、彼が進化し続ける限り、足を引っ張る動きや野次なども続くことだろう。
 だが、彼の技量や人柄、生き様を知る人達は彼を守り、人種差別とも共に戦ってくれるはず。彼を慕ってサッカーを始めた後進選手達のためにも、今回の騒動は周囲が自身を認めてくれている証拠の一つと考え、頭を高く上げ、ひたすら前進して欲しい。彼ならば、肌の色に関係なく、尊敬され、慕われる選手になれると思うから。(み)

最新記事