佳子さまのブラジルご訪問のハイライトは首都ブラジリアの連邦議会における式典なので、その挨拶文をここに再録する。
本来ならダヴィ・アルコンブレ上院議長も出席予定だったが、直前にルーラ大統領との緊急会合が入ってドタキャンになったという。だが昨年上院にも伯日議連が発足し、今回もテレザ・クリスチナ上議(元農務大臣)が議連会長代理として出席するなど、政界での日本勢の存在感は高まりを見せている。
日系社会がない北東伯パライバ州出身の、35歳の若き下院議長モッタ氏が、彼が生まれる前に活躍した日系初の下院議員・田村幸重氏に言及する挨拶をしたのにも驚いた。
わずか30歳の日本人女性がこれだけの過密な日程、かつ重要な公務の連続を立派にこなされ、行く先々で現地の日本移民はもちろん、日系子孫、ブラジル人から称賛されている姿を見るにつけ、同じ日本人として強い誇りを感じる。
若いながらも洗練された物腰で、相手の目線より低い位置を常に意識して挨拶し、相手によって言葉を選んで声をかけられていた。これを多数の人々と実際にやるのは相当難しい。挨拶の言葉ひとつとっても実に丁寧で、わかりやすく発音され、喋りながら周りに目を配る様は、訓練と経験がなせる熟練の技だ。
今回の10日間で8都市を回る中で、数えきれないほどの日系人や現地人に声をかけられ、握手をされた。日系社会の功労者はもちろん、日本語学校や連邦大学もご訪問され、日本文化を愛する人や日本語を学ぶブラジル人にも幅広く接させれた。今回、佳子さまが蒔かれた種子は、きっと5、10年後に花を咲かせるに違いない。
なお、挨拶最初の隣席した要人名列挙の部分は紙面の都合で割愛した。
秋篠宮佳子内親王殿下のお言葉

モッタ下院議長閣下、ご列席の皆さま、日本とブラジル連邦共和国との外交関係樹立130周年および日本ブラジル友好年という記念の年に、ブラジル政府のお招きにより、貴国を訪問できましたことを、大変嬉しく思います。
本日は、ブラジル連邦議会におきまして皆さまと日伯外交関係樹立130周年、日本人ブラジル移住の日記念式典に参加することができ、大変光栄に存じます。ただいま、モッカ下院議長閣下から温かい歓迎の言葉をいただきましたことを、深く感謝申し上げます。
今から130年前の1895年、日伯就航通商航海条約が調印され、日本とブラジルとの間に外交関係が樹立されました。それ以来、両国は政治、経済、社会、環境、学術、文化、スポーツなど幅広い分野に渡り交流を深め、相互の協力関係を築いてきました。両国議会におきましてもそれぞれ友好議員連盟が設立され、交流を深めておられます。本日こうして長い歴史の上に成り立っている両国間の絆に想いを馳せ、共にお祝いできることを誠に喜ばしく思います。
本年3月にはルーラ大統領閣下が国賓として訪問されました。その際に大統領閣下と共に両議長閣下をはじめとする議会関係者の皆さまも日本においでになりました。私も6年ぶりに宮中で開催された晩餐会で、皆さまとご一緒させていただいたことを嬉しく思っております。
また、このご訪問を一つの契機として、両国の間で様々な協力が進められていることを心強く思います。
そして日本とブラジルの友好関係も130周年を振り返りながら、私たちの間の友好関係は、日本からブラジルに渡った方々と、そのご子孫を含む両国の多くの方々によって培われてきたことに想いを寄せております。
ブラジルには世界最大の、約270万人の日系社会があります。今回の訪問では多くの日系の方にお目にかかり、お話を伺いました。日本から移住された方々とそのご子孫が日々努力を重ねてこられたこと、そして、ブラジルの社会に貢献してこられたこと、改めて胸に刻みました。
長年にわたり日本からの移住者を受け入れてくださったブラジルの方々に厚く御礼申し上げます。
ブラジルから日本にも日系の方を中心とする約21万人が来られ、様々な分野で活躍していらっしゃいます。ブラジルにいらっしゃる日系の皆さまと、ブラジルから日本にこられた方々のご努力は、日本とブラジルの友好関係をさらに深めることにつながっていると思います。

日本とブラジルは地理的に離れていますが、心の距離はとても近く感じます。ブラジルの様々な都市で日本祭りが行われており、日本でも各地でブラジル・フェスティバルやサンバ・カーニバルが行われています。
今後、両国間の協力関係がさらに深まり、末長く続くことを願っております。日本とブラジルの人々がこれからも交流を進め、より一緒になれる未来を思い描いております。大切な友人、アミーゴ、として。
終わりに、両国の発展関係に寄与してこられた全ての方々に改めて深い感謝と敬意を表します。と共に、ご列席の皆さま、ブラジルの皆さまの幸せ、そして両国のさらなる友好親善関係の発展を願い、記念式典に寄せる言葉とします。
ありがとうございました。ムイント・オブリガーダ!
ウーゴ・モッタ連邦下院議長の挨拶

秋篠宮家の佳子内親王殿下、ご列席の上院議員並びに下院議員の皆様、在ブラジル日本国特命全権大使林禎二閣下、ご列席の外交団の皆様、本式典にご臨席賜りました各界のご高名なご来賓の皆様、日系社会の皆様、そして本日ご臨席の全ての皆様。
本日、ブラジル連邦共和国下院は、日伯関係における二つの重要な節目を記念し、議員諸氏の要請により、この厳粛なる式典を開催する運びとなりました。すなわち、第一に「日伯修好通商航海条約締結130周年」、
第二に「日本人移民117周年」であります。
この記念すべき年にあたり、佳子内親王殿下をブラジル連邦議会にお迎えできますことは、私どもにとりまして誠に光栄の至りでございます。殿下のご臨席は、本式典に格別の重みを添えるものであり、また両国民の間に深く根ざした尊敬と友好の証であります。
ご列席の皆様、1895年に締結された日伯修好通商航海条約は、両国関係の礎となる「最初の一石」でありました。この条約により、1897年には外交代表部の開設が実現し、日本人移民の法的枠組みも整えられ、以来、今日に至るまで両国友好の精神が脈々と受け継がれております。
我が国ブラジルは、世界最大の日系社会を擁しており、その数は200万人を超えます。日系ブラジル人の皆様は、日々、わが国の発展に大きく貢献しておられます。
また、この融合は政治の世界にも及んでおります。本日、この場を借りて、1955年にブラジルで初めて日系人として連邦議会議員に就任された田村幸重氏のご功績を特筆したく存じます。田村氏は、ブラジルのみならず、日本国外で初めて議会議員となった日系人政治家でもあります。
その道を拓かれたことで、現在ご活躍中の西森ルイス議員や相原ペドロ議員をはじめ、多くの日系議員が我が国の民主主義に寄与され、日伯関係強化の一翼を担っておられることは、誠に意義深いことであります。
本年2024年における日伯間の二国間貿易総額は110億米ドルに達し、日本はアジアにおけるブラジルの第二の貿易相手国となっております。
宇宙開発分野においても、両国の協力はすでに数十年にわたり成果を上げております。
再生可能エネルギー分野においては、ブラジルが誇る豊富な資源と、日本が有する最先端の技術力とが相まって、両国は世界のエネルギー転換を牽引する潜在力を有しております。
ブラジル産のエタノールは、日本が化石燃料依存を低減する上で大いなる助力となり得ます。また、我が国の豊かなバイオマス資源は、世界のクリーンエネルギー供給源としての可能性を秘めております。
さらに、我が国の農業・畜産分野も、日本との協力のもと、セラード地帯開発などを通じて大きく発展してまいりました。その成果は、日本の皆様に良質かつ豊富な食料を安定的に供給する源となっております。
また、エンブラエル製の航空機が日本の航空会社に納入されたことは、日伯間の技術協力の好例であります。
ブラジル連邦議会は、この歴史的パートナーシップをさらに強化すべく、国会としての責任を自覚しております。本日のこの式典は、単なる記念行事にとどまらず、ブラジル立法府が日伯関係に対して明確かつ力強い政治的意思を示す場であります。
超党派によって構成されるブラジル日本友好議員連盟は、両国の絆をより一層強固なものとするべく、日夜努力を重ねております。
このことは、ブラジル議会が「議会外交」の重要性を深く理解し、両国民をつなぐ架け橋となるべくその役割を果たしている証左であります。
佳子内親王殿下、ご列席の皆様、日本人移民の皆様が、異なる文化を乗り越え、相互理解と共生の道を切り開いてこられた歴史は、私たちに多くのことを教えてくれます。日本の規律と、ブラジルの創造性が融合することで、数々の素晴らしい成果が生まれてまいりました。
本日のこの記念すべき日を迎え、ブラジル連邦議会は、両国の友好と協力に対する揺るぎない決意を改めて表明いたします。教育交流、技術協力、そしてより一層の経済パートナーシップの拡充に向け、我々は努力を惜しみません。
本日の式典が、日本の皆様、そして日系ブラジル人の皆様に対する私どもの深い感謝の念を改めてお伝えする機会となることを願ってやみません。次代を担う世代が、この日伯友好の炎を未来永劫にわたり燃やし続けてくれることを、心より祈念いたします。
全国各地からお越しの皆様、そして議会公式チャンネル等を通じてご覧いただいている日系ブラジル人の皆様、この百年を超えるパートナーシップの「生きた大使」としての皆様のご貢献に、改めて深甚なる敬意と感謝を表します。
日本人移民万歳!
日伯友好万歳!
西森ルイス伯日友好議員連盟会長の挨拶

議長、ありがとうございます。
まずはじめに、ブラジルにおいて心温まる歓迎を受けられた秋篠宮家の佳子内親王殿下に、心よりご挨拶申し上げます。
殿下のご親切さとご温和なお人柄に、ブラジル国民一同、深い感銘を受けております。また、ここにご臨席の皆様に謹んでご挨拶申し上げます。
ご列席の皆様、この機会に、ブラジル日本友好議員連盟を代表し、またその役員を代表して御礼申し上げます。多くの関係議員各位に、心より感謝いたします。
また、ブラジリア、ゴイアス州、パラナ州、トカンチンス州、サンパウロ州をはじめとする各地の日系人協会の会長・役員の皆様、さらには日系の市長・町長・議員の皆様、ならびに本日お越しいただいた多くのご来賓に、厚く御礼申し上げます。
改めまして、秋篠宮家の佳子内親王殿下に謹んでご挨拶を申し上げますとともに、心よりブラジルへのご来訪を歓迎いたします。
日本の皇室は、日本国民にとっての誇りであり、尊崇と敬愛の対象であります。それはブラジルの日系社会にとっても同様であり、また広くブラジル社会全体においても、深い敬意をもって受け止められております。この度、皇室をブラジルにお迎えできましたことは、私たちにとってこの上ない名誉でございます。
ブラジルはこれまでも、皇室の皆様を幾度となくお迎えする栄誉に浴してまいりました。上皇陛下明仁陛下と上皇后美智子陛下、現在の天皇陛下徳仁陛下、秋篠宮皇嗣殿下と紀子妃殿下、そして2018年には眞子内親王殿下のご訪問がございました。そして今、佳子内親王殿下がご訪伯され、サンパウロ州、パラナ州、マットグロッソ州、そして本日ここブラジリアにご臨席いただいております。
日伯修好通商航海条約締結130周年を祝うことは、まさに歴史的な遺産を讃えることであります。この条約は、日本人移民の歴史、そして両国間の友好と協力の礎を築く契機となり、多くの実りある成果をもたらしてまいりました。
そして今日、270万人を超える日系ブラジル人が、完全にブラジル社会に溶け込み、独自の文化的・食文化的融合を生み出しつつ、教育、農業、経済、医療など、あらゆる分野で多大な貢献を果たしておられます。

全国各地の日系人団体・協会が、この豊かな文化と伝統を守り、次世代にしっかりと継承してくださっていることにも、心から敬意を表します。
まさに「ブラジルと日本の結びつき」は、大きな成功物語であります。
2024年には、両国間の貿易総額は110億米ドルに達し、ブラジルは1億4600万ドル超の貿易黒字を計上しております。鉄鉱石、コーヒー、鶏肉、オレンジジュースといった農産物の輸出が中心であり、現在、日本で消費されているオレンジジュースのおよそ60%、鶏肉の約80%はブラジル産であります。
さらに、豚肉・牛肉、そして果物の輸出開始に向けても、私たちは努力を重ねております。加えて、ブラジルのエンブラエル社が生産する航空機も日本に輸出されております。
現在、約750社の日本企業がブラジルで事業を展開し、電子機器、自動車、食品、化学、金融サービスなどの戦略分野で活躍しております。ブラジル市場は、これら企業にとって事業拡大のみならず、ブラジル経済の発展、雇用創出、所得向上への貢献の場でもあります。
ブラジル連邦議会下院では、日本人移民の日を迎えるたびに、必ず本会議場で記念式典を開催し、その歴史的功績を称えてまいりました。私たちの願いは、この素晴らしい歴史を、常に生きた記憶として次世代に継承していくことであります。両国間の関係強化のために、私どもはこれからも全力で取り組んでまいります。
改めまして、ブラジルと日本の外交関係130周年、誠におめでとうございます!