特別寄稿=ハーバード大知日派が語る日本の美徳=ジョーンズ教授「日本は驚異的な国」=サンパウロ市ビラ・カロン区在住 毛利律子

ハーバードビジネススクールのジェフリー・ジョーンズ教授の紹介ページ

 外国人による日本人観、特に欧米の有名大学教授や研究者などの外側からの指摘は、新たな日本再考の機会となる。
 「ジョーンズ先生」とは、ハーバードビジネススクールを代表する知日派、ジェフリー・ジョーンズ教授のこと。世界の一流大学などで教鞭をとり、学習院大学などの客員教授を歴任。たいへんな肩書を持つ現役ハーバード大学教授である。
 日本への造詣は深く、エドウィン・O・ライシャワー日本研究所教授も兼任し、明治維新の岩崎弥太郎、渋沢栄一から環境ビジネスまで幅広い研究活動の実績を伴い、度々来日して、インタビューなどで日本人観について応えている。
 ここではジョーンズ教授と学生との質疑応答から、より一層ナットク! そして謙虚に自身を反省する日本人考を抜粋して紹介したい。教授の回答から、分析して説明できない側面を学び直すことができるからである。

小さな島国日本の底力とは

【学生の質問】アジアの小さな一島国。アニメや日本食などの側面では世界に価値ある物を提供しているが、かつての経済大国ではなく、現在の日本経済は20年以上停滞しており、国民の多くは高齢化している。アジアの端に位置する小さな国から学べることがあるとは思えない。
【教授の応答】日本は世界でも大国と言われる右にアメリカ、左隣に大きな中国、左上にロシアと超大国があることで、より小さく見える。
 しかし、近代、もしここに日本が無かったら歴史は大きく変わっていたかもしれない。また日本はこれら三つの超大国と戦争の経験があり、アメリカ以外の国に勝利しているという驚くべき事実がある。そしてアメリカとの戦争で敗れたにも関わらず、日本人はGHQの支配から解放されてからも戦争放棄を掲げ、平和精神を続けている。この戦争放棄という自己規制を守り続ける難しさはたいへんなことである。
 日本の隣国である中国・北朝鮮・韓国、そしてロシアとの外交関係であるが、中国は何度も日本との国境を越え不法な漁業や尖閣諸島への侵入などの挑発行為を繰り返している。これに触発された韓国も中国の影に隠れて竹島を自国の領土だと主張する。このような国際的な争いの中で日本は戦争を拒絶し、模範的な国として評価され、周辺国からの脅威に対しても不屈の姿勢で立ち向かっている。
 韓国は内閣の支持率低下時には反日問題を利用し、国内の注目を他の方向に向けようとする傾向がある。同様に北朝鮮も経済的困難時には日本海にミサイルを発射し日本を脅かし続けている。さらにロシアも日本の東北に隣接し千島列島に戦闘機を派遣し、常に脅威を示している。
 これらの外交的な姿勢は友好的とは言い難く、欧州連合の価値観である隣国を尊重する考えとは、大きくかけ離れていると言える。日本はこのような状況にも関わらず戦争放棄の誓いを貫き通していることは注目すべきことである。

もし、アメリカが日本と同じ小国だったら

ハーバード大学にあるエドウィン・O・ライシャワー日本研究所のサイト

 アメリカの領土が日本と同じサイズに縮小され、今の日本の場所にアメリカがあると仮定しよう。
 輸送コストを考えれば近隣国との貿易が一般的。その結果アメリカは隣接する中国が主要な貿易相手となる。中国からは安価で品質の低い商品がアメリカ市場を席巻するであろう。しかしアメリカから中国への輸出は高い関税に阻まれ実質的にアメリカの輸入は制限されることになる。
 ロシアは定期的にアメリカの国境に侵入し、アメリカ北部の島々を自国の領土と主張し戦闘機を差し向けるであろう。同様に中国や韓国もロシアに対抗し、アメリカ南部の島々を自国の領土と主張し始めるかもしれない。中国人やベトナム人労働者がアメリカの労働市場を占拠する一方でアメリカ人の雇用が減少するであろう。
 日本人は70年以上もの間、このような状況に耐え、不合理な嫌がらせに耐え忍び、黙々と努力を積み重ね、世界の先進国として認識されるまでに至ったのである。

経済について

【中国人学生の質問】日本は昔は先進国として発展していた。しかし最近は中国にもGDPを抜かれてしまった。それに日本国内では賃金が上がらなくて不満が増大しているというニュースを見聞している。そんな日本から何を学ぶのか。
【教授の応答】日本はアジアの端に位置し、アメリカ、中国、ロシアなどの三つの超大国の交差点にあり、国土は狭く若い人口も少なく、資源や地理的な利点はほとんどない。それににもかかわらず、日本は世界第3位の経済大国を維持している。
 この事実自体が日本から学ぶべき価値があることを示しているのではないだろうか。
 日本人ほど勤勉で、教養豊かで技能に秀でた国民は他にない。学生の皆さんもトヨタ、ホンダ、ソニー、ユニクロ、任天堂など世界的に有名な日本企業を知っているだろう。これらの企業が持つ真の資源は人的資本である。さらに日本人は社会的な意識が高い人々として特に際立っている。彼らから多くのことを学ぶことができるが、特に価値のある教訓は、彼らの平和的な精神であろう。
 確かにあなたの言う通り日本はGDPの伸びがペースダウンしている。その結果賃金が上がっていないのも事実である。日本はアメリカなどに比べて大企業と呼ばれる企業が少ない。
 そして中小企業中心の社会構造なので、各々の会社に労働組合などがない場合がある。労働組合がない企業では労働者が経営者に意見を伝えるシステムが整っていない場合が多い。そのため労働者が労働者自身の労働環境を改善したり、経済的地位を向上したりする術がない。
 他にも人口が減少していることに加え、増税や物価の上昇がGDPの伸びをペースダウンさせている原因となっている。
 現在日本は、もちろん世界中の国が戦争や新型コロナウイルスの影響を受けている。特に日本は物価高が続きながらも、賃金が上がらないという苦しい状況である。
 ご存じの通り日本は海に囲まれた国土の小さな島国である。戦後焼け野原で壊滅的になってしまった経済を再建すべく、海外の技術を多く活用した。再建に必要な技術である、便利家電や工業製品に鉄が必要なため製鉄所を設立した。他にも特定の一族が支配する財閥の解体などを通じて経済を民営化した。
 その結果、中小企業がたくさん生まれ人々の生活水準向上、人口増加につながっていった。戦後の壊滅的だった状態からわずか20年程度の間に、アメリカなどの大国に匹敵する規模にまで経済成長を見せたのである。
 今一番重要なことは、国を引き上げるための成長力である。世界の国々も経済成長を遂げながら豊かになってきた。皆さんの祖国もそうだ。
 しかし、日本のようにマイナスの状態から急速な成長を果たした国が他に存在するであろうか。日本が著しく経済成長した頃の成長率は、アメリカ、ヨーロッパ諸国のそれよりもはるかに高い。しかも日本はたった数十年で先進国の仲間入りを果たした。
 当時アメリカやヨーロッパ諸国も戦争の影響を受けて経済成長が容易でなかった。それなのになぜ日本だけが驚異的な成長率を示し先進国に一気に追いつけたのか、皆さんは分かりますか。
 日本が驚異的な経済成長を遂げた理由は、日本人独特の精神にある。日本人は古くから、学ぶことに対して熱心であり、海外からの技術やものを熟知するまで学び続けるのである。
 英語やその他の外国語も、日本の誰もが理解できるように翻訳する。そして技術は真似だけでなく改良する。またそうして知り得たものは一人で独占しようとせず、全国に普及させる。
 日本人は真面目で勤勉だが、とても謙虚である。たとえ、良い技術を身につけても安心せず、自分たちはまだ未熟なんだと考え、さらに努力を重ねる。
 日本は耕作面積も小さいが、日本の気候に合わせた作物を長年かけて作り出してきた。日本ブランドのフルーツはとても美味しく、海外でも有名である。そして日本は災害も多く、何度災害にあっても立ち直り、その都度、学習し改善してきた民族である。そのため、日本の耐震技術は世界一と言われているのである。
 インスタントラーメンやカーナビは、日本の発明品である。あなたたちが知らないだけで、私たちの生活にも、日本で開発された製品は広く浸透している。また若者を中心に愛用され、今では家庭に1台はあるゲーム機も日本が誇る発明品である。

暴動が起きない国

『コロナ後 ―ハーバード知日派10人が語る未来―』(佐藤智恵著、2021年、新潮新書)。上段左から2人目がジョーンズ教授で、渋沢栄一が世界的に評価される理由について語っている

 現在、日本国内には外国人労働者が増えている。中国やベトナムなど物価が低い国々からは低賃金で働く労働者が日本に押し寄せている。
 外国人労働者たちのマナーや行動は、日本人と比べて明らかに民度が低いと言わざるを得えない。これにより、何十年も何百年も築いてきた、日本の平和な精神と安全な居住環境が揺らぎつつある。
 高齢化、少子化による人手不足による外国人労働者の受け入れ、度重なる災害、周辺強国からの不当な圧力、もし私たち外国の国民が同じような状況に置かれたらどうなると思うか。おそらく給料の増額を求めてストライキや暴動が起きるであろう。街は混乱に陥り、警察や政治家も制御不能になり、国家が崩壊してしまうかもしれない。
 しかし日本ではストライキが一切起きず暴動もない。不満はあるかもしれないが、必死になって頑張る。そして知恵を生かして節約し、お金を増やす方法を模索する。得た情報をみんなで共有しながら団結して取り組んでいく。これが日本の人々の特徴である。
 ここで皆さんに聞きます。今私が述べた状況において、日本人のように辛抱強く耐え忍ぶ自信を持つ方はいますか。
 耐え続けるとということは簡単にできない。確かに言葉や行動で訴えることも重要で、日本人はこの点で少し消極的と言われる。しかしストライキをしたり、暴動を起こしたとしても、今の世界の状況を、日本の政治が変えられるわけではない。
 日本人は民度が高く、極めて賢いことで知られており、世界中の人々の中で最も冷静で、我慢強い民族であると私は考えている。戦後の焼け野原ですべて失ってからわずか20年で立ち直り、先進国の仲間入りを果たしたのは日本以外に無いと思う。
 災害が起きるたびに学び続け、人命救助の技術や耐震技術を磨き、地域に適した農作物を研究する。小さな国だからと諦めずに努力し続けてきた。だからこそ日本は立派に立ち直り、国際社会で中心的な役割を果たしているのではないかと、私は考えているのである。
 最後に、私の長年の研究からの日本人観をまとめよう。本当に日本は驚異的な国である。平和な心を持つ日本人は、人間の理想的な姿を示していると思う。また日本は世界に重要な教訓を与えてくれた。
 私はいつか必ず日本に住む予定です。これは、国のこと以上に人間性に惹かれて思うことです。日本人は基本的に思慮深い人々です。私は個人的には、お願いですから日本は変わらずにいてほしいと祈りつつ、心から日本の人々に敬意を表します。日本は変わらないでほしい。
     ☆
 以上、論理的で説得力のあるジョーンズ教授日本人観を紹介した。読み返して、深く敬意を表したしだいである。なぜなら筆者には、このように、日本人だからなお、知らない、見えない、説けないことばかりだからである。また、昨今の日本特有の文化の崩れ現象をマスコミで知るたびに、暗澹たる思いに駆られる。いや基本は盤石であるはずだと信じたい。
 日本への好感、あるいは批判的感情に対して、現代の日本人は真摯に冷静に受け止め、うぬぼれず、卑屈にならず、各国への「誤認」を減らす努力を厭わないこと。それが、このような賞賛への返礼となるのではないだろうか。

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