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《特別寄稿》日系人よ、かくあることを願う=ドイツ系に学ぶ文化継承のあり方=サンパウロ市 榎原良一さん(えのきはらりょういち)

 「さぁ行こう、一家をあげてブラジルへ!」。ブラジル移住への夢と不安に満ちあふれた気持ちを持って日本移民が、1908年(明治41年)に始まりました。そして、その最初の移民の年から、日本国公認の移民が幕を閉じた1993年の間に、約25万人の日本人移民がここブラジルに移住して来ました。
 結果、日本移民開始から115年を経過した今日、ブラジル日系人の数は200万人以上とも言われています。従って、既に現実的にブラジルへの日本移民が終焉を迎えてしまった今からの日系社会の主役は、当然のことながらブラジル生まれの日系人ということになります。今回は日本からの移住者の一人として、日系社会の主役たる日系人への願いを込めて述べてみたいと思います。
 では最初に、日系社会の主役である私達の身近にいる日系人を見てみましょう。皆さんはそれぞれが彼らへの独自の印象をお持ちだと思いますが、私が危惧しているのは比較的「日本嫌い、日本人嫌い」の日系人が多いという現実です。
 では、彼らのこの日本や日本人嫌いの理由を代弁してみましょう。「お父さん、私は日本人の子供なのに、どうして日本国籍が無いの? 私の周りのブラジル人は、自分のことを『ジャッパ、ジャッパ』と呼んでるよ」「自分は日本人の顔をしているから、知り合いのブラジル人は日本について色々質問してくるのに、自分は日本についての知識が無いので答えられないから恥ずかしいよ」「日本に滞在した時に、日本人から片言の日本語を話す自分が冷笑されてしまった不快な経験をしたことがある」「先の戦争中、或いは戦後暫くは、幼年期だった自分は下を見ながら街を歩かざるをえない苦い思い出がある」「お父さんの説明する日本精神や日本の教育の素晴らしさは分かるさ。しかし、文化の違うブラジル生まれの自分に、強要しないで欲しい。ブラジルにだって良い点は沢山有るんだ!」と言った苦情や嘆きが彼らから聞こえて来ます。
 仮に、将来の日系社会の主役たる日系人のほとんどが「日本嫌い、日本人嫌い」になってしまったら、一体どういう日系社会になってしまうのでしょうか? 今はっきりと即答できるのは、こんな日系社会は過去の移住者の本意では無いばかりか、先人が積み上げてきた努力が全て無駄になってしまうということです。
 では、これからの日系社会の主役たる日系人には、どういう人間になって欲しいのか? この問いかけに参考になるのが、ドイツ移民の末尾に添付した「ドイツ系ブラジル人の讃歌」と以下で説明するドイツ移民1世の子弟への教育基本方針「ドイツへの愛着とブラジルへの熱い気持ちの両立」ではないでしょうか。
 ドイツ系ブラジル人であると同時に、立派なブラジル人であって欲しい。そして、ブラジルにおいてドイツ文化の中で生活しても、生まれ育った祖国であるブラジルに強い愛着を持って欲しい。この教育基本方針が、ドイツ系ブラジル人への讃歌からも読み取ることができます。
 ドイツ系ブラジル人と言えば、真っ先に頭に浮かぶのがエルネスト・ガイゼル元大統領です。彼の父親は16歳の時に両親と一緒にブラジルにやってきた準2世、従ってガイゼル元大統領はドイツ系3世ということになります。彼がこの教育基本方針が身に染みついたブラジル人だったことは充分に推察することができます。
 一方、日本移民1世の子弟への教育基本方針はどうだったのでしょうか? ブラジルでは、日本人の子弟への熱心な教育は皆が周知するところであります。「西欧人は先ず教会を建てる。一方、日本人は学校を建てる」という言葉がこれを良く表しています。
 しかし、この日本人1世の教育も、「いつかは日本に帰る」が教育方針の前提になってしまっていた。従って、「生まれ育ったブラジルを祖国だと思え!」というドイツ移民の教育基本方針とは異なり、日本移民の場合は「日本への愛着」が優先してしまい、ややもすれば「ブラジルへの熱い気持ち」の大切さが、私達の子孫である子供や孫達に正しく伝わらなかったのではないか?

入植50周年を記念して2003年に建立された先没者慰霊碑(榎原さん提供)

 そして、もしそうとするならば、その教育方針がさもすれば「日系人の日本嫌い、日本人嫌い」に間接的に結びついてしまったのかもしれません。
 我々1世は日本を離れてブラジルにやって来た。しかし、我々の心の中からは日本は決して離れることはなかった。日系人は日本の精神文化を身に纏った立派なブラジル人たれ。そして同時に、心の底から自分達には日本人の血が流れている自覚を忘れるな。我々1世の「日系人よ、かくあることを願う」を忘れないでくれ!そして、この精神武装こそが、ブラジル日系人の持つべきアイデンティティーだと思ってくれ!

ドイツ系ブラジル人の讃歌(ヴォルフガング・アモン)

父なる国ブラジルに栄えあれ。
自ら切り開いたこの大地、
そこがわれらの揺りかごの地、
われらの祖先が血と汗流し
斧をふるってうち立てた、
ここがわれらのふるさとの地。
母なる国ドイツに栄えあれ。
ドイツの血はわれらの資産だ、
計り知れぬ大きな力だ。
われらの命は偉大なる
父なる国ブラジルに向けられる。
されどわれらはドイツを忘れはせぬ。
太陽の国ブラジルに栄えあれ。
心身ともにこの国を愛し、
われらはこの命をば捧ぐ。
ドイツの祖先から受け継いだ
われらの心髄に誇りを持ち、
なおかつこの国に忠誠を尽くす。
緑と金の旗に栄えあれ。
目の前でその旗がはためくと
われらの胸は高く打つ。
その旗の示すところ、
喜びも苦しみもともにして、
われらは死すまで従い行かん。

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