
約2億4500万年前の小惑星衝突で形成された南米最大のクレーター「アラグアイーニャ・ドーム」が、標識欠如や動物の死骸放置といった深刻な管理不全に陥っている。ユネスコ認定の地質遺産にもかかわらず、観光や研究向けの整備は進まず、専門家や住民は「放置の象徴」と警鐘を鳴らす。地質公園化に向けた動きはあるが進展はないと20日付G1など(1)(2)が報じた。
ブラジル西部のマット・グロッソ州とゴイアス州の州境にまたがる同クレーターは直径約40キロ、面積約1300平方キロでリオ市を上回る広さだ。直径約4キロの小惑星が秒速14〜16キロで地球に衝突し、広範囲に壊滅的な影響を与えた跡とされる。
当時、衝突地点は浅海で、衝撃により広域で地震と津波が発生、半径約500キロにわたる生態系に打撃を与えた。恐竜が出現する以前、中生代初期(約2億5400万年前)の出来事とされ、局地的には爬虫類や両生類などの生命が失われたが、地球規模の大量絶滅には至らなかったと研究者らは推測している。
1973年、米航空宇宙局(NASA)の研究者ロバート・ディーツ氏とビーヴァン・フレンチ氏が最初に科学誌で存在を報告。78年にはカンピーナス州立大学の地質学者アルヴァロ・クロスタ氏が衝突クレーターであることを証明し、以降40年以上にわたって研究を継続してきた。
この地には衝撃による破砕岩、断層(地殻内の岩盤が破断し相対的にずれている構造)、しゅう曲(地層が圧縮力を受けて波状に変形した構造)といった地形的特徴が顕著に残されており、「地質学的宝」として高く評価されている。2022年にはユネスコと連携する国際地質科学連合(IUGS)によって「世界の主要100地質遺産」の一つに認定された。
だが現地では繁茂する植生がアクセスを妨げ、観光案内や解説板がないばかりか、動物の死骸が周囲に放置されており、管理や衛生面での問題も顕著だ。さらに、クレーター中心部を通過するマット・グロッソ州の州道100号(MT―100)に関しては、事前の地質評価や保存措置が講じられず、地層が地表に露出している露頭部が工事で壊された箇所まで発生。
連邦検察庁(MPF)は24年、鉱山動力省およびブラジル地質調査所(SGB)に対し、地質公園化のための調査を要請。調査は25年7月に完了予定とされるが、行政の対応は限定的で、クロスタ氏は「これまで国も州も市も関心を示してこなかった」と厳しく批判している。
現地では、衝突の際に高温高圧下で変成された鉱物も確認されている。とりわけジルコン(ジルコニウムのケイ酸塩鉱物)などの鉱物が激しく変形しており、地表における衝撃変成作用(隕石などの高速衝突により短時間で岩石に強烈な圧力や熱が加わり、鉱物や組織が急激に変質する現象)の稀少な証拠として注目を集めている。
現在も学生や研究者、地元住民らが訪れるものの、整備の遅れによりジオツーリズムや教育活用の可能性は十分に生かされていない。専門家らは貴重な自然遺産の価値を未来に伝えるためにも、早急な整備と公的関与の強化が不可欠だと訴えている。