ブラジルで普通に使う鎮痛剤=日本や欧米で禁止はなぜか?

市販されているジピローナの一例
市販されているジピローナの一例

 「ジピローナ」(dipirona、別名メタミゾール)は1920年にドイツのホークスト社が開発し、1922年からブラジルで「ノヴァルジーナ(Novalgina)」名で流通している鎮痛・解熱剤だ。ノヴァルジーナのほか、ドルフレックスやネオサルジーナといった市販薬にもジピローナが含まれている。頭痛や術後の痛み、歯痛、月経性のけいれん、風邪による発熱などに広く用いられ、ブラジルでは処方箋不要で購入可能な一般用医薬品に分類されている。2022年には国内で4番目に多く販売された有効成分となり、2023年上半期だけで9350万回分が売られた。
 ジピローナは痛みと炎症を引き起こす酵素COXを阻害し、神経を過敏にさせるプロスタグランジンの生成を抑えることで効果を発揮する。ただし、妊婦や授乳中の女性、低血圧の人、体重5kg未満の乳幼児には使用が推奨されていない。
 一方、アメリカでは1977年にジピローナの販売が禁止された。背景には1964年に発表されたアメリカ医師会雑誌の研究がある。類似成分アミノピリンを服用した患者のうち約1%が無顆粒球症という重篤な副作用を発症し、ジピローナも同様のリスクを持つと判断されたためである。
 その後、ホークスト社は市場復帰を目指し2200万人を対象とした大規模調査を実施。無顆粒球症の発生率は100万人に1・1件と極めて低いことが確認された。しかしスウェーデンでは一時再許可されたものの、4年で1439件の処方に1件の副作用が報告され、再度禁止となった。
 欧州医薬品庁は2018年の報告で、ジピローナの副作用発生には人種や遺伝的要因が関係している可能性を指摘。実際、スペインで認可されているにもかかわらず、無顆粒球症の報告350件のうち約半数はイギリス人であった。
 こうした背景を踏まえ、ブラジルの医薬品監督機関Anvisaは2001年に専門家会議を開き、安全性は他の市販薬と同等かそれ以下と結論づけた。2002年から2005年のラテンアメリカ共同調査でも、発症率は年間100万人あたり0・38件にとどまった。
 ジピローナはリスクを伴う薬ではあるが、その頻度が極めて低いため、ブラジルでは引き続き使用されている。薬の安全性評価は国ごとの医療事情や人種的特性によって異なり、一律の基準では語れないのが実情だ。(1)(2)

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