「初の女性宇宙飛行士」は虚偽?=NASAが経歴否定し波紋 

ライッサ・ペイショット氏(本人インスタグラム@Astrolaysa)
ライッサ・ペイショット氏(本人インスタグラム@Astrolaysa)

 「ブラジル初の女性宇宙飛行士」を自称し、米国での宇宙ミッション参加予定を公言した若干22歳のライッサ・ペイショット氏が大きな話題を呼んでいる。だが、その主張の裏には数々の疑念と矛盾が浮上していると11日付のG1など(1)(2)(3)が報じている。
 米航空宇宙局(NASA)は同氏が正式な訓練を受けていないことを明言しており、学歴や経歴の一部も確認が取れていない。所属を主張する宇宙企業は有人宇宙飛行を実施する法的資格を有しておらず、同社との関係を巡る信憑性にも疑問が残ると報道されている。
 ペイショット氏は自身のSNSで「2025年の宇宙飛行士クラスに選抜された」と明らかにし、29年に米民間宇宙企業「タイタンズ・スペース」社の宇宙飛行に参加予定と投稿。将来的には月や火星への有人ミッションへの関与も示唆した。だがNASAはG1の取材に対し、「同氏は宇宙飛行士候補ではなく、訓練を受けた記録も存在しない」と明確に否定した。
 宇宙飛行士になるには科学・技術分野での修士号取得後に2年以上の実務経験、高性能ジェット機の操縦士として1千時間以上の飛行経験が必要となる。NASAの厳格な選考基準を踏まえると同氏の主張には現実味が乏しい。
 同氏はミナス・ジェライス連邦大学(UFMG)から米マンハッタン・カレッジに編入後、現在は米コロンビア大学で量子物理とコンピューター応用の修士課程に在籍中と主張しているが、UFMGは23年に履修登録がなかったため除籍処分となったと説明。コロンビア大学も在籍記録は確認できないという。
 同氏が所属を主張するタイタンズ・スペース社にも、その信頼性に疑問が呈されている。同社は有人宇宙飛行の実績がなく、米連邦航空局は「同社は有人宇宙飛行の商業運用に必要なライセンスを取得していない」と明言。同社公式サイトにもペイショット氏の名前は掲載されておらず、両者の関係についても公的な裏付けはない。加えて同社代表者はブラジルメディアに「宇宙船やステーションの建造すら始まっていない」と述べており、29年のミッションの実現性にも疑問が残る。
 こうした中、SNS上にはNASAのロゴ入りのヘルメットをかぶった同氏の写真が投稿されたが、その後同じ写真からロゴが削除されたバージョンも確認されており、画像加工の可能性が指摘されている。
 ペイショット氏の広報担当は「NASAの教育プログラムに参加したが、勤務していたとは一度も主張していない」と釈明。タイタンズ・スペース社のウェブサイトに名前がない点については「更新されていないだけ」と説明。参加したとされる「L’SPACE」は、NASAの関連機関が提供するオンラインの教育講座で選抜制ではない。NASAも「これは単なる学生向けワークショップであり、雇用や訓練の機会ではない」と説明している。
 ペイショット氏はかつて「19歳でNASA入りし、火星探査技術の開発を主導した」とも語っていたが、これも誇張との見方がある。だが、この主張を鵜呑みにしたブラジル国内の複数メディアが「ブラジル初の女性宇宙飛行士」として華やかに報じ、フォーブス・ブラジル誌でも取り上げられた。
 一連の疑惑報道を受け、同氏はSNS「リンクトイン」の自身のアカウントを削除した。

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