歯がないのに歯科保険料請求?=弱者狙う不当引き落とし契約

イナシオ・フェレイラ・ダ・シルヴァさん(7日付G1サイトの記事の一部)
イナシオ・フェレイラ・ダ・シルヴァさん(7日付G1サイトの記事の一部)

 3本しか歯がない高齢男性が不必要な歯科保険料を知らないうちに引き落とされ、先住民族の女性には簡素な小屋にはそぐわない住宅保険料が請求された──これらの事例は、中部トカンチンス州で相次ぐ不当契約の氷山の一角に過ぎず、弱者層を取り巻く保険契約トラブルの深刻さを浮き彫りにしていると7日付G1(1)が報じた。
 イナシオ・フェレイラ・ダ・シルヴァさん(66歳)は、45年連れ添った妻マリアさんと共にトカンチンス州アラグアイーナで暮らしている。加齢と共に歯をほぼ失い、現在は3本しか残っていない。にも関わらず2024年5月、歯科保険会社オドントプレヴから年間保険料553・60レアル(約1万4千円)が自動引き落とされていたことに気づき、夫妻は困惑した。
 イナシオさんは過去に脳卒中を患い、発話や歩行に障害が残る。妻によれば、住まいは3部屋あるが床がなく、壁も未完成の状態だ。生活費や医薬品の購入で手一杯の中、「500レアルあればまず食料や薬を買い、余れば家の修理に回す」と語る。こうした家計状況では歯科保険の支払いは優先されず、「どう支払いをやりくりするか途方に暮れた」と訴えている。
 オドントプレヴ側は、契約は「正当に顧客の承認を得ている」と主張し、義歯作製やインプラント装着など多様なサービスが含まれていると説明。不正防止のため監視・監査体制も整えており、一部の458・25レアルを返金したとしている。
 イナシオさんは1年以上にわたり保険料を支払い続けたが、一度も利用していない。現在は国立社会保障院(INSS)から支給される最低賃金(月1518レアル=約3万9500円)の年金に頼って生活しており、契約は不当な引き落としだったとして、支払額の2倍の返還と精神的苦痛への賠償を求めている。
 保険料の初回引き落としは23年5月で、その日はたまたま年金口座にまとまった入金があり、残高の増減に埋もれ、気付きにくい状況だった。
 同州サンタフェ・ド・アラグアイアでは、先住民族カラジャ族のジュラシー・ウェケルさんが22年11月、ブラデスコ保険から30・51レアルの住宅保険料を引き落とされたことに疑問を抱いた。彼女の住居は先住民居住区内の板張りの簡素な小屋で、保険の対象として適切かどうかが争点となった。
 24年2月、約3250レアルの和解金が支払われ訴訟は終了。民間保険監督機関Susepeは、住宅の保険適格性に関して構造的な明確な基準はないとし、通常は不動産の登録や状態評価が行われると説明。ただし、先住民居住区の住宅は連邦政府所有地に建てられており、個別登録が存在しないことから、保険契約の実態には疑問が残る。保険会社は本件へのコメントを控えている。
 弁護士イザベラ・マルチンス氏は、同様の訴訟が相次いでいる現状を踏まえ、低所得者に不要な契約が半ば自動的に結ばれている実態を問題視し、司法での見直しを求めている。

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