
ブラジル中西部マット・グロッソ・ド・スル州の内陸部に直径約500メートル、深さ100メートルにも及ぶ巨大な陥没穴が存在し、まるで「ロストワールド」のように150種以上の鳥類や爬虫類が棲息する貴重な生態系を保存していると話題になっている。地元では「ブラッコ・ダス・アララス(インコの穴)」と呼ばれるこの地形は、自然が数百万年をかけてつくりあげたもので、環境破壊とペット取引のための違法な捕獲によって著しい個体数の減少が続く貴重なベニコンゴウインコが約120羽も生息する。保全と研究、持続可能な観光が共存するモデルケースとして注目を集めていると5月31日付G1など(1)(2)が報じた。
ブラッコ・ダス・アララスは、同州ジャルジン市に位置し、地質学的には「ドリーネ(またはシンクホール)」と呼ばれる地形に分類される。この地形は長年にわたる石灰岩の浸食により地下に空洞が形成され、その後、表面が崩落して生じた陥没孔だ。地質学者によれば、当該地域の地質構造の形成は1千万年以上前に始まったと考えられている。ただし、現在見られるような大規模な空洞が形成されたのは、約30万年前であると推定されている。
内部には小規模な湖が存在し、周囲の岩壁には無数の洞が点在する。これらはベニコンゴウインコの営巣地として機能しており、特に繁殖期には安全な産卵場所となる。
この地域にはアリゲーター科に分類されるワニの一種「クチビロカイマン」、全長約7メートルに達する大型のアナコンダ、小型哺乳類、コウモリ、猿、ツバメやキツツキなど多種多様な生物が確認されている。植物相も豊かで草本、花卉、果実や種子をつける樹木が生い茂っている。
観光業専門家ジョゼニルド・ヴァスケス氏は「ブラッコ・ダス・アララスは1912年、周辺の農場で働いていたカウボーイたちによって偶然発見された。このドリーネは数千年にわたる堆積作用の成果であり、まさに『失われた世界』とも称すべき神秘的な景観を持つ。多種多様な生物が共存する、極めて豊かな生態系を形成している」と説明した。
2007年に連邦政府から私有地保護区(RPPN)として認定されて以降、域内へは生物研究、エコツーリズム、環境教育の三つの活動に限定して人の立ち入りが認められている。観光客は約1時間20分のトレッキングルートに沿って景観を楽しむ「展望ツアー」と、野鳥の撮影に特化した4時間の「観察ツアー」から選べる。専門の認定ガイドによる同行が義務づけられており、野生動物との接触は禁止だ。
運営は土地の所有者であるモデスト・サンパイオ氏が行っており、2000年にRPPNへの転換を決意。07年に連邦政府の認定を受けた。以降、同氏とその家族は、10万本以上の苗木を植林するなど環境再生に尽力。観光収益のうち必要経費を除いた残余は氏の収入となるが、法令により管理・保全への再投資が優先されている。
このように所有者は自然保護の責務を政府と分かち合い、生態系の維持に寄与している。政府側からは、対象面積にかかる農地固定資産税(ITR)の免除など一定の支援がなされている。
RPPNの設立には自然的価値の高い区域の選定、土地所有の法的証明、管轄機関への申請、現地調査の実施といった一連の手続きが必要。監視や査察はシコ・メンデス生物多様性保全研究所(ICMBio)、国立再生可能天然資源・環境院(Ibama)などが年次ベースで行う。
陥没地という珍しい地形ゆえに固有の生態系を維持し続けるブラッコ・ダス・アララスは、民間と行政が連携した自然保護の成功例として国内外の関心を集めている。