航空5社創業の異色経営者=米国・ブラジル二重国籍のニールマン

デビッド・ニールマン氏(Foto: Marie Hippenmeyer/Divulgação)
デビッド・ニールマン氏(Foto: Marie Hippenmeyer/Divulgação)

 ブラジルの航空大手アズールは28日、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請し、事業再建に向けた法的手続きに入った。2008年の創業以来、地域路線網の拡充と中型機の効率的運用を武器に市場を開拓してきた同社だが、新型コロナウイルスの影響や金利上昇を受け、財務基盤の再構築を迫られている。こうした状況下、創業者で現在も一定の影響力を保持するデビッド・ニールマン氏(65歳)の動向が、業界関係者の間で改めて注視されている。米国とブラジルの二重国籍を持ち、両国で5社もの航空会社を創業した経歴を持つ同氏は、航空業界での実績と異色の歩みで知られる人物だ。
 28日付エスタード紙(1)によると、 ニールマン氏はブラジルで生まれた。米国人の父ゲイリー氏が50年代にモルモン教宣教師としてブラジルに赴任後、UPI特派員として歴史的事件を取材し、当時のクビチェック大統領とも親交を深めた。ニールマン氏自身も78~80年にブラジル国内で宣教活動を行い、この経験が後の事業に影響を与えたとされる。
 同氏の事業には成功と挫折が共存する。米国ではモーリス・エアを設立し92年にサウスウエスト航空へ売却した後、自身も同社経営幹部に就任したが、組織運営との軋轢により短期間で退任。
 競業禁止条項により一時カナダに拠点を移し、94年に米格安航空(LCC)のウエストジェットを設立。その後、米国へ戻り99年にLCCのジェットブルーを立ち上げた。短期間で米国第8位に成長し、「最も創造的なCEO」の一人として高く評価されたが、07年の大規模欠航の責任を問われ退任した。
 08年にブラジルへ渡りアズールを設立。エンブラエル製中型機を活用し、既存大手が手薄だった都市間路線を開拓。航空券価格の低廉化と地方空港の活用で新たな需要を喚起した。ポルトガルのTAP航空にも出資し、電子チケットなど革新的な技術にも積極的に投資してきた。
 ニールマン氏は現在、21年設立のLCCのブリーズ・エアウェイズの経営に注力する。同社は同氏が関与した5社目の航空会社であり、大手との正面競合を避け、地方の小規模空港を活用して直行便を提供することで、利便性と低運賃を両立する戦略を掲げている。既に全米70都市以上に就航し、徹底したコスト管理と差別化されたサービスで市場での地位を確立しつつある。
 ニールマン氏は社内で積極的に議論を交わし、コスト削減を主導。600人超のパイロットに個人の携帯番号を教えるなど離職防止にも力を入れている。
 一方、アズールに対する同氏の経営支配権は依然として不透明だ。今後の債権者や出資者との交渉次第では経営権が分散し、特定の支配株主を持たない企業構造へ移行する可能性も指摘される。
 現在アズールの乗客数は前年同期比9・1%増の1040万人に達したが、パンデミックの影響と高金利環境の継続による打撃は避けられず、昨年10月に裁判所外の再建計画を発表した後、5月28日に法的整理に踏み切った。
 ニールマン氏は「航空業界で利益を上げた者より、損失を被った者のほうが圧倒的に多い」と述べ、自らの挫折を糧に挑戦を続ける姿勢を崩していない。アズールの今後と共に、同氏の次なる一手に視線が注がれている。

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