トランス女性を男性扱い=テロ容疑者収容所送りに

タルリス・ゴンサルヴェスさん(Foto: Reprodução)
タルリス・ゴンサルヴェスさん(Foto: Reprodução)

 米国亡命を求めて越境したブラジル出身のトランスジェンダー女性が、「テロ容疑者専用」収容所に送られた。彼女は男性専用棟に収容され、自らの人権を訴えたが、冷徹な対応に苦しみ続けたという。これは単なる移民問題にとどまらず、性別と人権が絡む複雑な問題を浮き彫りにしていると1日付フォーリャ紙(1)(2)(3)などが報じた。
 ミナス・ジェライス州出身の美容師タルリス・ゴンサルヴェスさん(28歳)は、トランスジェンダー女性であることを理由に迫害を受けていると主張し、2月15日、亡命を目的にメキシコ経由で米国への入国を試みた。
 コヨーテ(不法入国を仲介するあっせん業者)に約7万レアル(約180万円)を支払い、テキサス州エルパソ近郊の国境地帯を徒歩で越えた直後、米国移民当局に拘束された。ニューメキシコ州内にある移民収容施設の男性専用区画に送致され、49人の男性収容者とともに9日間を過ごした。
 タルリスさんはフォーリャ紙の取材に対し、「私は何度も、自分はトランス女性であり、男性ばかりの場所では安心できないと訴えた。独房には3段ベッドが三つあり、鍵が閉まらないトイレが一つだけあった」と述べ、さらに「セクハラを受けていると訴えたのに、何の対応も取られず、家族に電話することも弁護士と話すことも許されなかった」と当時の状況を振り返った。
 行き先を知らされないまま、手足と腰を拘束された状態で米軍機に搭乗させられ、テロ容疑者収容施設のキューバの米軍グアンタナモ基地に送致された。「看守は私を人間扱いしなかった。キューバまで連れてこられたと知って絶望した。ブラジルに戻されると思っていたため、自分の身に何が起こるのか分からず、ただ恐怖だった」と語った。
 グアンタナモ基地で5日間を過ごしたのち、再び説明のないまま米軍機でマイアミへ移送され、ルイジアナ州の収容施設に送られた。男性収容者との同室を拒んだ結果、彼女は17日間にわたり独房に収容された。「独房を出られるのは1日に25分間の日光浴のときだけだった」と証言している。
 施設内では食事の量も不十分で、常に空腹だったという。ただし、当局からタブレット端末の使用が許可されていたため、母国の姉と連絡を取ることができた。「電話越しに、姉と2人でずっと泣いていた」と語った。
 タルリスさんは4月初旬にブラジルに強制送還された。手足を拘束されたまま移送され、「手錠がとてもきつくて、足の腫れが10日間引かなかった」と語った。現在はミナス・ジェライス州の実家に戻り、コヨーテに支払った借金返済のために働いている。「私の計画は自分の美容院を開くことと、両親の家を完成させることだった。まさかキューバの刑務所に送られるとは思ってもいなかった」と訴えた。彼女によれば収容所の職員の中には「米政府はトランスジェンダーの存在を認めていない」と発言した人もいたという。
 トランプ第2期政権の発足以来、タルリスさんと同様、少なくとも177人の不法移民がグアンタナモ基地に送致された。米自由人権協会(ACLU)および憲法権利センター(CCR)は、こうした収容のあり方に異議を唱え、移民局の措置を違法とする訴訟を提起しており、タルリスさんの証言もその一部として提出された。
 タルリスさんは「トランプ氏にも家族があり、子供もいる。彼が将来、トランスジェンダーの子や孫を持ち、私たち家族が経験したような苦しみを味わうことのないよう願っている。私の母は深く傷ついたから」と辛い心情を述懐した。

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