農業大国なのに840万人が飢餓 ⁉︎=2500万人が「食の砂漠」に

24年にブラジルで生産された15の主要農作物の生産額(単位:10億レアル)(29日付G1の記事の一部)
24年にブラジルで生産された15の主要農作物の生産額(単位:10億レアル)(29日付G1の記事の一部)

 穀物、肉類、砂糖、コーヒーなど多様な農産物の生産において、世界的食糧生産基地の地位を確立したブラジル。だが国連の最新報告によれば、2021〜23年に国内人口の3・9%にあたる約840万人が飢餓に直面している。29日付G1(1)が、貧困層の購買力低下や輸出偏重型の農業構造など、食料不安を招く要因を多角的な視点から分析し、政府の取り組みと残された課題について報じた。
 専門家は、ブラジルにおける食料不足の主因は供給量の不足ではなく、それを購入する経済力がない人が多いことと指摘。失業率は改善傾向にあるものの、賃金上昇が物価、特に食品価格の上昇に追いつかず、結果として購買力が低下している現状がある。2014〜24年に、実質賃金の上昇はわずか5%にとどまった一方、低所得層のインフレ率は約85・8%、食料品価格は116・7%も上昇した。
 2014〜16年の経済危機と、新型コロナ禍の影響に加え、テメル政権およびボルソナロ政権下における食料安全保障政策の後退も飢餓の再拡大に拍車をかけたとされる。特に学校給食や、農家から直接食品を買い取って学校・福祉施設に提供する「食糧獲得プログラム(PAA)」などの社会支援政策の縮小が、脆弱層への支援を後退させたと専門家は指摘している。
 農業生産が輸出志向に偏りすぎているとの指摘もある。国家配給公社(Conab)の統計によれば、国内で消費される米やフェイジョン豆の作付面積が、2005〜24年で各43%、32%減少する一方、輸出向けの大豆とトウモロコシはそれぞれ108%、63%増加した。食糧栄養安全保障国家評議会(Consea)のエリザベッタ・レシネ会長は、「こうした傾向は国際価格や為替変動の影響を受けやすく、将来的な国内供給の安定性に懸念が残る」と警鐘を鳴らす。
 これに対し、全国農業連合(CNA)のブルーノ・ルッシ技術部長は、国内市場向けの供給は維持されており、飢餓の主因はあくまで所得格差であると反論。気候変動も新たな課題として顕在化しており、干ばつや異常気象が生産や供給網に影響を及ぼす懸念が強まっている。
 特に問題視されているのが「食の砂漠(フードデザート)」の存在だ。これは新鮮な果物や野菜、タンパク源となる食品にアクセスできない地域を指し、全国で約2500万人が該当地域に居住、うち670万人は低所得層、または貧困状態にあるという。こうした地域では、加工食品に依存せざるを得ず、糖尿病や高血圧など生活習慣病のリスクが高まっている。
 連邦政府はこの状況の打開と、26年までに国連の「ハンガーマップ」からの脱却を目指し、23年3月に社会福祉政策「ボルサ・ファミリア」の再編・拡充を行ったほか、学校給食やPAAの予算増額など、複数の施策を展開してきた。地理統計院(IBGE)によると、22年は3300万人に達していた深刻な食料不安層は、23年には約800万人へと大幅に減少した。
 だが、依然として極度の社会的脆弱層が支援制度の網から漏れており、政府は27年までに国民の80%を社会扶助の統一登録システム(カダストロ・ウニコ)に登録することを目標とし、農家支援の拡充も含めた包括的な対策を推進しているが、持続的な飢餓撲滅に向けた道のりは依然として険しい。

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