マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(16)=サンパウロ 梅津久

第9話
失礼な電話

 電話の礼儀。日本では「〇〇さん宅、または、〇〇会社ですか?」「こちら〇〇ですが、××さんおられますか?」とまず自分の名前を言ってから、相手がだれであるか聞く。間違っていれば「どうもすみません」と電話を切るものだ。
 だが、ブラジルでは先にまず「ケン・ファーラ?(だれだ?)」と言ってくる。電話をかけておいて「だれだ?」とはないものだが「〇〇です」と答え、これは間違い電話かなと思っていると、「・・・・・ガシャン!」と切られてしまう。礼儀もなにもあったものではない。
 このへんが基本道徳教育のないブラジルの悪い癖なのだろう。だから私は「ケン・ファーラ?」と来たら、先に「コン・ケン・エスタ・ファランド?(おまえはだれだ?)」と聞いてやる。それでも「…? ガシャン」ではあるが、少しは相手が、何か違うなと感じていると思う。
 また、個人の電話である場合でしつこくかけなおしてくる場合は、もう日本語で「もしもし、もしもし」と云って出てやる。相手は「…??? ガシャン」である。全部が全部こうではなく、十人に一人位は「メ・デスクーペ(すみません)」と言って電話を切る良心的な人もいる。
 もっとひどい話としては、なにかの不注意で物を落として壊してしまったとき、「カイウー(落ちた)」、もっとひどいと「カイウ・ソージニョ(かってに自分から落ちた)」と言って、「すみません」と誤ることなど決してない。自分は常に正しく、相手が悪いからこうなったのだという考えが身に付いている。
 また宗教観からきているのだろうけど、なにか間違ったことや、悪いことがあると「デウス・ケ・キース(神が欲したから)」となってしまう。これは相手が神をだしてくるので、神を侮辱して叱るわけにもいかず、ただ唖然とするのみである。
 ブラジルには「ア・リングア・セン・オッソ(舌には骨がない)」と言う言葉通り、口からでまかせのいい加減なことを言う、あるいは言葉を左右に濁して逃げ回るということが多い。ブラジル人の舌は絶妙に柔らかく、絡み合っているようです。

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