ベネズエラ=マドゥーロ再任で揺れるブラジル=通商維持だが政治は距離=トランプ圧力がカギ握る

南米ベネズエラで10日、大統領就任式が行われ、独裁的な国家運営を続ける左派のニコラス・マドゥーロ氏が3度目の就任式に出席。国内外からの批判や反発と野党の抗議の中でも、式典は強行され、同氏は6年の任期をスタートさせた。就任式の前日は与野党によるデモ活動が行われ、参加していた野党リーダーのコリーナ・マチャド氏が一時的に拘束されるなど、情勢は緊張を高めた。
ブラジル政府は就任式に大使を派遣したものの、昨年7月の選挙でのマドゥーロ氏勝利を公式には認めておらず、他国や国際機関と同様、選挙結果に疑問を抱いている。今後、ベネズエラ政府と関係をどのように維持するかは外交上の難題で、専門家達は、ブラジルは短期的には技術的な関係を維持し、政治的な介入を避けるだろうと予測している。また、米国のトランプ新政権がどのような態度を取るかが、今後のベネズエラ情勢に大きな影響を与えると見られていると、同日付BBCブラジルなど(1)(2)が報じた。
両国間の関係は、ブラジル政府がベネズエラの選挙過程を批判し、選挙結果を証明する投票記録を開示しない限り、マドゥーロ氏当選を認めない姿勢を示したことで冷え込んでいる。両国は戦略的に重要な関係を持っており、特に、2200キロメートルに及ぶ国境を共有する地域では、麻薬密輸組織の活動や違法伐採による環境問題、さらには移民問題など、深刻な課題を共有している。これらに関しては、ブラジルはベネズエラと協力しなければならない状況にあり、外交的に「冷却」しても、実務的な関係は維持せざるを得ないという現実がある。
さらに、約1万1千人のブラジル人がベネズエラに住んでいることや、2024年の貿易額も16億ドル(内7億7700万ドルがブラジル側の黒字)に達していることなど、経済的な繋がりも両国の関係を完全に断絶することを難しくしている。
ブラジルは昨年、大統領選直前のベネズエラに催涙スプレーを輸出していたことが公になり、物議を醸した。(3)輸出はブラジル国防省と陸軍が許可し、納品は民間企業を通じて行われたが、当時のベネズエラは国際社会がマドゥーロ政権の人権侵害や選挙の不正に懸念を示している状況下だった。
ブラジル政府は催涙スプレー輸出について、現行の法的手続きに則って行われたと説明しているが、専門家や人権団体は、政治的抑圧を強化する可能性があるとして批判している。特に、マドゥーロ氏再選に対する国際的な反発や、国内での抗議活動に対する弾圧が問題視されている中での輸出は、ブラジルの外交政策と防衛産業の間のジレンマを浮き彫りにした。
その一方で、米国のトランプ氏の大統領再任がベネズエラ情勢に与える影響も無視できない。トランプ政権の態度次第で、マドゥーロ政権の今後が大きく左右される可能性があるからだ。トランプ氏はベネズエラに対して厳しい制裁を課す可能性が高く、その場合、ベネズエラの経済は一層困難な状況に追い込まれると予想されている。
だが、その一方で、米国がベネズエラ産の石油を購入し続けるような状況が続けば、マドゥーロ政権は一定の安定性を保つ可能性もある。
専門家らは、ブラジル政府は、ベネズエラとの関係において慎重な態度を取りつつ、米国の対応を注視しながら外交戦略を練り直す必要があると指摘する。仮にトランプ政権がベネズエラとの関係を緩和し、マドゥーロ政権の維持を容認するような方針を取るのであれば、ブラジルもその動きに同調せざるを得なくなる可能性がある。逆に、米国が強硬策を採るならば、ブラジルはさらなる困難に直面することになり、経済や安全保障などの実務的な協力を維持しながらも、政治的な距離を取るという微妙なバランスを取る必要に迫られる。