《記者コラム》ブラジル人サッカー選手の性犯罪と性被害者

裁判を受けるダニ・アウヴェス(X)

 先週、サッカー日本代表伊東純也選手の性加害疑惑が報じられ、SNSで世間の反応を眺めていたが、日本代表のファンたちが同選手を熱烈に擁護し、被害を訴えた女性たちを強い口調で悪者扱いしていたことにかなり驚いた。ブラジルではサッカーのスター選手の性加害疑惑はもっと頻繁に起こっているが、被害を訴えた女性側が、少なくとも事実が明らかになるまでは、批判されるという光景は圧倒的に少ないからだ。

 今回の伊東選手の件は、ブラジルだとロビーニョが2013年にかけられた容疑との類似性が感じられる。伊東選手の場合は被害を訴えている2人の女性が、同選手と専属トレーナーから大阪のホテル内で酒に酔わされ、その間に性加害を受けたとの訴えを行っている。
 ロビーニョは5人の友人たちとナイトクラブで女性を泥酔させ、その間に酔わせて強姦した。ロビーニョの方が「性的合意」が極めて認めにくい大人数での行為であり、被害者が泥酔している様子を面白がる音声証拠なども出てきたため、その加害性はるかに重いものであることは確かで、最終的に有罪判決を受けている。
 伊東選手の件はロビーニョの件に比べて決定的証拠が少ないとは言え、既婚の伊東選手がホテルの一室で女性と酒を飲んで過ごしていたことは事実とされ、残るは性的合意があるかないかを問うということになれば、「事実無根」を強く主張できるようなものとは言い難い。
 このスキャンダルがアジア選手権の最中に起こったことは気の毒ではあるが、もし同じことがW杯などの大事な大会の時にブラジルのスター選手に起こったとしても、被害を訴えた女性に対し、同じような擁護の反応が起こるかといえば、そうは思えない。
 例えば、優勝経験回数で世界歴代屈指の記録を持つダニ・アウヴェスは2022年の年末、バルセロナのナイトクラブのトイレで性行為を強要し逮捕された。これに関し、彼が歴史に残る選手だからといって熱烈な擁護の声が上がっているかといえば、そんなことはない。
 また、マンチェスター・ユナイテッドの若手選手アントニーは恋人に振るった度重なる暴力疑惑で代表招集を見送られている。この件は彼の元夫人が助けに入ったことで落ち着いた様相を見せているが、それでも訴えた女性が悪者にされた印象はない。
 訴えた女性が唯一悪者にされたのは、ネイマールを2019年にレイプで訴えた女性だけだ。その女性は顔と氏名まで公表し、ニュース番組で「決定的証拠を見せる」と息巻いたが、その映像ではホテル内でその女性に追われ逃げ惑うネイマールが映されただけ。これくらいの笑い話にならない限り、女性側が責められる印象はない。(陽)

最新記事