ブラジルの大学受験=長野育ちの日系4世の挑戦(5)=恋愛も諦めない予備校生たち

「この女の子のインスタを知りたい。朝型コースか医学部コースに通っている事は知っている」と情報提供を呼び掛けている様子

 私は本気で勉強をするために予備校に入った。
 だが、自習の為に入った予備校の空き教室では、隅の方で楽しそうにいちゃつくカップルの話し声がどうしても耳に入る。よく見ると、予備校内にはカップルがたくさんいる。そして場所を選ばず、戯れている。
 「あの歴史の先生いるだろ? あいつこの前、朝コースのA子ちゃんとワンナイトしたらしいよ」という物知り顔の学友の噂話の声に、おもわず勉強の手が止まる。日本では教師が生徒に手を出すことはタブーだ。
 この驚きを、ひとり胸に留めておくことが出来ず、思わず予備校仲間にメッセージを送ってしまった。すると「ああ、そんなの普通だよ」とあきれた様子の顔文字付きで返事が返ってきた。
 ブラジルでも一応、先生と生徒の恋愛はタブーではあるが、「なったらなったで仕方ないよね」程度の認識だという。驚くなかれ、同性愛者も多いため、男性教師と男子生徒の関係も珍しくないそうだ。
 友人は予備校内に存在する出会い系システムのことも教えてくれた。そのシステムの中心は、運営主不明のとあるインスタグラムアカウントだ。予備校内に気になる人が出来、その人のことが知りたいと思った時は、こっそりと撮影した意中の相手の写真をそのアカウントに送る。
 すると運営主は撮影者が誰か特定されないように工夫しながら、写真をインスタグラムに投稿し、フォロワーに情報提供を求める。フォロワーは1千人以上おり、その中心は同校に通う予備校生だ。
 投稿のコメント欄には「×日の医学部コースで前列に座って授業を受けてたよ」「緑色の服をよく着ているよね」と続々と情報が集まってくる。撮影者は集まった情報をもとに声を掛け、恋を実らせるという仕組みだそうだ。
 アカウントの存在は教師も知っているため、撮影者が教師だったなんてこともありえる。
 その後も、予備校内恋愛の具体的な実例を、友人から聞き取り取材した挙句、私は「やれやれ、こんなことしている暇があるなら、みんなもっと勉強をすべきでは」とついぼやいてしまった。
 ふと窓外を見やると、すっかり日が暮れていた。(松永エリケさん、続く)

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