【2024年新年特集号】《記者コラム》ボウロス、ヌーネス、アマラウ=サンパウロ市市長選は三つ巴の戦いか

 2024年10月は4年に1度の全国市長選が行われる。それはサンパウロ市でも例外ではなく、毎回大きなドラマが展開されるが、今回の選挙は結果次第で市制の行方が大きく左右される例年以上に大きなもの。その注目の展開を占っていきたい。

中心となるのは「パウリスタを変えた男」

ギリェルメ・ボウロス下議(Pablo Valadares/Câmara dos Deputados, via Wikimedia Commons)

 今回のサンパウロ市市長選でその軸となるのは、ギリェルメ・ボウロス下議(社会主義自由党・PSOL)だろう。2018年大統領選に36歳の若さで出馬して注目された同氏は、2020年のサンパウロ市市長選で健闘。決選投票にまで進出し、当時現職だったブルーノ・コーヴァス氏に敗れはしたものの、決選投票でも4割の得票を獲得するなど、同市の歴史でまた支持が強いとは言えなかった急進左派候補としては予想以上の支持を得た。
 そのボウロス氏が現在、30%以上の支持率を受けて世論調査のトップに立つ。前回の選挙結果で次点だったのだからさもありなんではあるが、現在の同氏の人気を説明するにはそれだけでは足りない。
 なぜか。それはボウロス氏が市の最大の中心地、パウリスタ大通りのイメージを大きく変えたことにある。同大通りといえば、かつては金融やサンパウロ工業連盟(Fiesp)の大型社屋に象徴されるビジネスの街で、そこに最大の商業繁華街が付随し、文化やファッションを牽引するイメージで、さらにここで政治的なデモも行われる感じだった。
 ところが現在は、金融の中心がファリア・リマ大通りに移ったこともあるが、今やパウリスタ大通りは若者と政治主張のイメージが一気に強くなった。デモではPSOLやボウロス氏が率いていたホームレス労働者運動(MTST)の活動が活発になり、交差するアウグスタ街やフレイ・カネカ街で予てから強かったLGBTの勢力が強くなった。
 また、ボウロス氏に加え、連邦議会きっての女性論客サミア・ボンフィン下議やトランスジェンダー議員のエリカ・ヒルトン下議などPSOLの下議が、聖市の若者にとってのオピニオン・リーダーになっていることも大きい。サンパウロ市に限っていえば、左派としては労働者党(PT)を超えているとも言える。
 そのことはルーラ氏やサンパウロ州知事選候補だったフェルナンド・ハダジ氏(現財相)も認めるところであり、2022年の大統領選、サンパウロ州知事選で共闘。その結果、ルーラ氏、ハダジ氏ともに聖市でボルソナロ前大統領、タルシジオ・デ・フレイタス氏を上回る支持を獲得した。そして今回の選挙ではPTが左派国内最大政党のプライドを飲み込み、ボウロス氏を推すに至っている。
 もともと左派に強力な地盤あり、対立候補を見るに票を食い合う対抗馬も少ないため、現在の感じだと、少なくとも2位以内、決選投票には行くであろうとは見られている。
 だが同氏の問題は「市民の過半数の支持を得られるか」。同氏の唱える進歩的な思想や、同氏の支持者にも少なくないホームレスの人々が時に起こす住居の違法占拠などは保守派の強い反感を招きやすい。また所属政党のPSOLは伝統的に「犯罪組織と繋がっている」との根拠のない情報を流されやすい傾向がある。選挙は時の運でもあるので、最終的にはこうした風評との戦いになるような気もしている。

保守派、現状維持派を取り込みたいヌーネス。ボルソナロはどう出る?

現職のリカルド・ヌーネス市長(MDB Nacional, via Wikimedia Commons)

 ボウロス氏を追うのが現職のリカルド・ヌーネス市長(民主運動・MDB)だ。ブルーノ・コーヴァス前市長の2021年の死を受けて副市長から昇格。市民が直接的に市長として選んでいないため存在感のアピールが予てから問題されていた。
 だが、その割には、早くから再選をアピールした甲斐もあり、現時点で20%後半の支持を得ている。その背景には「現状の市政に不満があるわけではない」「ボウロス氏では過激すぎる」といった直感的なものから、サンパウロ市で伝統的に強い中道右派の、コーヴァス氏の民主社会党(PSDB)、また現在、PSDB勢力をかなり取り込んでいるジルベルト・カサビ元市長(06〜12年)の社会民主党(PSD)の支持層も取り込んでいる。
 さらに、ボルソナロ前大統領の自由党(PL)のヴァルデマール・コスタ党首が早くからヌーネス氏再選支持で動いていることも今のところはプラスに働いている。
 ただ、ヌーネス氏には不安要素がある。それはボルソナロ前大統領との折り合いが良くないことだ。ヌーネス氏はボルソナロ氏が自身を支持してくれることは歓迎しているものの、自分の口からボルソナロ氏を支持することをためらっている。それは昨年の大統領選でも同様し、ボルソナロ氏はヌーネス氏が自分の支持の公言を避けたことを根に持っている。
 これにより、ボルソナロ氏が現時点で誰を支持するのかが不明であり、それ次第でボルソナロ派の票がヌーネス氏から大幅に動く可能性がある。ただ、そのためには、その最右翼と目されている元環境相のリカルド・サレス氏が、本人が望む通りに自由党(PL)を離党して他党から出馬できるのかにかかっている。しかし現時点で受け皿になりそうな正統派はまだ見えない。

2強に割って入る候補は?

タバタ・アマラル下議(Liderança do PSB na Câmara, via Wikimedia Commons)

 ボウロス、ヌーネス氏の2強に割って入る第3勢力だが、その一番手はタバタ・アマラル下院議員(ブラジル社会党・PSB)だろう。現在の支持率は10%弱だ。
 米国の名門ハーバード大学卒業の才媛として知られ、25歳で下議当選、そしてまだ弱冠30歳のタバタ氏はこの早熟の出世ぶりゆえに将来を高く期待されている。その才能はサンパウロ州知事を4期つとめ州内では絶大な支持を誇るジェラルド・アルキミン副大統領のお墨付きもある。
 左派寄りながらも行き過ぎを好まず、保守派の意見にも耳を貸す姿勢は、左派・右派両サイドの穏健なところを票田にできそうなポテンシャルがある。。それを意識してか、副候補にPSDBの政治家かニュースキャスターのジョゼ・ルイス・ダテナ氏を据えようとする試みを行っている。
 ただ、2019年に社会保障改革に賛成する投票を下院で行ったため左派本道や極左の市民の人気は今ひとつで、彼女自身かなりの反ボルソナロ派なので保守でも中道寄りに支持は限られる。
 4番手はキム・カタギリ氏(ウニオン)。ブラジル自由運動(MLB)を率いてジウマ政権を打倒した2016年の行動はまだ市民の記憶には残っている。ただ、PT政権が復活し、同氏が拠り所としたラヴァ・ジャット作戦の権威は地に落ちて久しい。ボルソナロ派とも折り合いは良くなく、苦戦は必至だ。
 5番手はサンパウロ州知事選4位のヴィニシウス・ポイト氏か。所属政党のノーヴォ自体が支持獲得に苦戦している新興系の独立系保守政党ゆえこの選挙戦でも現時点では支持がわずか。だが、討論会などで一泡吹かせる場面を見せれば、ヌーネス氏や、今後現れるかもしれないボルソナロ氏が推薦する候補の票を食うことはできるかもしれない。(陽)

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