《記者コラム》ピストル向けられ呆然=コンビニのレジの前で

 いつものコンビニで、リンゴジュースを手にレジに並ぶと、自分の前に並んでいたのは強盗だった。
 最初は自分の前の〝客〟がレジ係に命じて、買い物袋に金を詰めさせていたので、「何かおかしいな」とは思っていた。
 状況が理解できずジュースを片手に呆然としていると、前にいた強盗から突然ピストルの銃口を向けられ、「スマホを置いて店の奥へ行っていろ」と命令された。 6月18日(日)午前10時、移民の日イベントで賑わうサンパウロ市のブラジル日本文化福祉協会ビルから50mほど離れたコンビニでのことだ。
 ゆっくりとポケットからスマホを取り出し、レジカウンターに置く。頭が状況を理解していくにつれ、膝が震え始めたのがわかった。動転する気持ちを抑えながら、強盗の指さした店奥の飲食スペースの椅子に座った。
 強盗は銃を持った脅迫役と入り口付近で周囲を見張る警戒役の2人組だった。風貌はよく覚えていない。店内に居たのはコラム子と若い男性店員だけ。店先を数人が通り過ぎたが、白昼の強盗劇に気付く者はいなかった。
 脅迫役が店員を怒鳴り、急かしている。じっと事が収まるのを待った。およそ3分、2人組は人通りの少ない文協ビルと反対方向へ逃げ去った。
 店員が2人の逃げ去った方向を確認しながら自前のスマホで警察に通報している。店員に怪我は無く、被害は店の金とコラム子のスマホだけだった。
 通報を終え、憔悴した様子の店員。不意に出くわした死の恐怖によって精神がひどく疲弊させられたのだと伝わってくる。コラム子もそう見えたようで、互いに慰めの言葉を掛け合った。
 動揺も次第に収まり、事後処理と気持ちを落ち着けるため、その日の予定は全て中止して帰宅した。リンゴジュースは買い忘れた。
 シンギュラー社一行の取材を行ったのは、この約一週間後のこと。一行の語るブラジルの治安問題への言葉が傷心に沁みる。同社のブラジルでの事業成功が心から願われた。(石)

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