ノマドで旅しながら日本語教師=(上)=企業勤め経て、タイで独立

 時間や場所に縛られず、オンラインで仕事をする人を「ノマド」という。ノマドは英語で「遊牧民」という意味だ。沼澤温子(あつこ)さん(45、山形県出身)は、ラテンアメリカやヨーロッパを旅しながら、オンラインで日本語教師をしている。ノマド日本語教師となった経緯について、沼澤さんサンパウロ市に滞在していた5日に直接聞いた。。
 沼澤さんがはじめて海外旅行をしたのは20歳の時。マレーシアを一人旅した。出発前は不安だったが、親しくしていた化粧品カウンターの女性店員から「成し遂げたらきっと大きな自信になるだろうから、気をつけて行って来てね」と励まされ、勇気の一歩を踏み出した。「実際にマレーシアの一人旅は大きな自信へと繋がりました」という。
 理工学系大学院を卒業後、ヤマハに入社。31歳まで勤め人として過ごした。「海外で働きたい気持ちはあったんですが、どうすればいいのか分からなかったんです」と当時の心境を語る。
 6週間のスペイン語留学を契機に、「海外で働くにはどんな仕事があるのだろう?」と考えるようになった。

リオのカーニバルを見る沼澤さん(本人提供写真)

 海外ではいつも日本語教師が不足しているということを知り、教師養成講座を受講し、プロの日本語教師となった。勤務先を探した結果、2017年、39歳の時、タイの日本語学校に就職した。
 就職活動中、ネットを活用した日本語の授業をすでに行っていた。
 タイの日本語学校は宿題が多く、採点に多くの時間を取られた。さらに、教科書を使わず、教師が用意した教材での授業だったため、その準備で大変な激務だったという。
 「タイには世界中を飛び回りながら働いている人や旅行をしている人がいて、自分もそんな生活をしたいなぁと思ったんです。その時、自分はもうすでにネットで日本語を教えているという事に初めて気付きました。それでオンラインだけで日本語の授業をした時の諸々の試算を始めたんです」と理系らしい顔を覗せた。
 試算の結果、退職金がもらえる3年間は日本語学校で働くことにし、2020年に日本語学校を退職した。
 ノマド日本語教師として活動を本格化させようとしたところ、コロナ禍が始まった。各国は出入国制限を厳しくし、世界を飛びまわることは難しくなったが、逆にオンラインで日本語を学びたい人は激増した。
 日本語教師界隈では、「コロナ禍の影響で対面授業が行えず生徒が減って生活が大変」との悩みを抱える人が増えていた。沼澤さんはそんな悩める日本語教師らに「オンラインで授業を行えば、学校授業に負けない収入が得られるよ」と伝えるため、2020年7月にYouTube上に自身のチャンネル「オンライン日本語教師」を開設。ブログサイト「note」でも「ノマドになれる日本語の教え方」で情報発信を始めた。現在ではそうした活動からも収益が得られるようになったという。
 2020年9月、ヨーロッパの入国緩和を受けて、タイを出国。友人のいるフランスのディジョンへ向かった。いよいよ念願のノマド生活が始まった。
 ノマド生活を活かし、生徒のいるスイスにも旅行に行った。スイス滞在中、フランスのコロナ規制が厳しくなり、その年は年末までスイスで過ごした。荷物はフランスから送ってもらった。(つづく、大久保純子)

サビアの独り言

 沼澤温子さんとの出会いはとあるオンライン勉強会でのことだった。温子さんはノマド日本語教師の3大メリットとして(1)好きな時間に働いて、好きな時間に休める(2)仕事の時間をすべてお金に換えられる(3)自分と馬が合う人とだけ仕事できる、と話してくれた。特に印象的だったのは「人は自分の想像の範囲内でしか物事を達成できない。想像の範囲を広げてくれる友達を大切にしよう」という言葉だ。彼女の前向きな生き方が伝わってくる。(純)

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