多田邦治さんが2作目の歌集=故郷に続く道詠む『春の鉄橋』

2冊目の歌集を持つ多田さん

 ブラジル最古の短歌誌『椰子樹』代表を務める多田邦治さん(78歳、徳島県出身)が、個人としては2冊目の歌集『春の鉄橋』を3月末に日毎叢書企画出版から上梓した。
 巻頭歌《上流も下流も果てはかすみたる春の鉄橋わたればふるさと》では、帰省するたびに必ず通らなければならないJRローカル線の鉄橋を通る際の心境を「上流も下流も果てはかすみたる」と詠み、ブラジル在住者としての故郷との距離感を滲ませた。
 多田さんが「詠み鉄」(鉄道に関する作品をよく詠む歌人)を自称する背景には、自分の故郷に帰るには必ず鉄道に乗らなければならない物理的条件があり、「鉄道=故郷への道」のような思いがあるようだ。
 この歌集には1995年以降の作品から約850作が収められており、地球の反対側のブラジルまで来た勢いが作品にも反映されて、アマゾン地方などの国内はもちろん、地中海、北欧、東欧、ポルトガル、中国、北極海、北中南米など世界を股にかけて詠まれたものがずらりと並ぶ。
 地球の反対側に住んで世界中を旅行する中で、体はどんなに離れても、移民の頭の中のどこかには故郷への想いがこびりついている。巻頭歌に続く連作の中には《時効無き不幸詫びつつ丘の上の父の御(み)墓に花を置きたり》という万感の思いを込めた鎮魂歌も掲載される。
 そして多田さんは取材に対し、「故郷にいる104歳で元気にしている母にこの本を捧げたい」と述べた。この歌集を読みたい人はメール(kuniharutada@gmail.com)、手紙(Rua das Camélias, 835, Condomínio Arujazinho-1, Aruja, SP, BRASIL CEP:07435-720)まで連絡を。

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