在住者レポート=アルゼンチンは今=相川知子=訪日アグリビジネス研修が佳境に=中南米アグリビジネス商談会=10月25日農林水産省で開催

 去る10月22日、既報3年ぶりの中南米日系農業者等との連携交流・ビジネス創出委託事業 アグリビジネス研修参加のため研修テーマ「土壌」のグループ10人が日本に到着した。24日(月)から先発研修中の「生産性」グループと合流し、合計20人で日本の農場訪問、収穫体験を行った。翌25日は農林水産省で日本企業との商談会が開催された

日本の農場訪問・収穫体験などで交流

 24日はあいにくの悪天候であったが、一行は雨にもまけず、バスで埼玉県さいたま市の「ファームインさぎ山」を中心に、研修生の専門分野に関わる農家数軒を訪問した。

小松菜の包装作業ついて説明するさいたま市の若谷さんを囲む中南米アグリビジネス研修生 (写真撮影と提供は全て相川知子さん)

 若谷農園では、若谷茂夫代表自らが小松菜の包装の様子を説明。小規模スペースのレイアウトによる効果的な作業手順を間近に見ることができた。若谷代表は「農業は私たちの命を支える重要な生命維持産業であり、消費者の近くで地域社会貢献を目指す」と話した。

 今が旬であり付加価値の高い果物の一つにシャインマスカットがあり、バス内で試食した。日本はまさに秋の実りの時期であった。今井農園到着後、かけ袋の取られたブドウに、研修生らはすぐに近づき、熱心に写真を撮り始めた。ブドウ棚は低く、かがむのが少し大変そうだった。

都会から毎シーズン2千人の体験実習者を迎え、その人達が収穫する米を予約購入する6次産業の例「ファームインさぎ山」。左のエリカ・オカムラさんはブラジル・サンパウロ州ピラール・ド・スルぶどう生産者

 食育活動表彰で2022年農林水産大臣賞を受賞した「ファームインさぎ山」では、たい肥を使った有機栽培米の収穫を体験した。
 お昼ご飯には、収穫体験で優しくも厳しく、カマを持つ手を教えてくださったはぎわらさんのお母さん宅で作られたお弁当をいただいた。研修生らは「こんなにおいしいお弁当、今までで食べたことのない」と真ん丸の里いも煮っころがし、ふかしたさつまいも、サクサクとしたれんこんなどの有機野菜づくしの弁当に舌鼓を打った。
 午後は大起理化工業を訪問。スペイン語とポルトガル語のグループに分かれて土壌、水分計などのデモンストレーションを見学。終了するやいなや、購入したいという声があがり、目的の商品を嬉しそうに手にする研修生がいた。

ダイキの土壌水分計の説明を受ける中南米日系農業者コロンビア、メキシコ、ペルー、ボリビアのスペイン語圏グループ

農林水産省にてアグリビジネス商談会

 翌25日は前日とは打って変わって、フォーマルな装いでロビーに集合。ブラジルのマテ茶を飲んでいるグループと遭遇し、幸いにも日本で朝のマテ茶の時間を得た。アルゼンチンのジェルバマテとは違い、1年寝かせる行程がないため、鮮やかな緑のジェルバの色に目を奪われた。
 マスク着用が常識である日本の環境の下、地下鉄で移動したスーツ姿の中南米日系アグリビジネス研修生一行は、霞が関の摩天楼のビル群に圧倒されながらも、農林水産省の建物内に吸い込まれていった。農林水産省らしく、会場入口にある自動販売機は木材があしらわれ、また民芸品の展示を休憩時間に見ることも可能であった。
 商談会は日本企業4社が参加し、研修生も四つのグループに分かれて時間交替制で商談を行った。
 商談会に参加した日本企業の(株)ヴォークストレーディング社は、南米未展開のため、中南米の国土のスケールに驚きつつも、日系農業者らの事業規模や内容も違うことから、それぞれに対応した提案をしたいと意気込んでいた。
 初参加のニイヌマ(株)社は、中南米地域と貿易を行うのにかかる運賃や、税制に関して見当を得たいという。富士色素(株)社は土地や気候に合わせて製品を開発する意欲があり、生物分解する製品を数点紹介した。日産スチール工業(株)社は、すでにオンライン商談会でお馴染みの、エチレンガスを吸収し、二酸化炭素とナノ水分解によって長期鮮度保存を可能にする梱包用フィルム製品「フレッシュママ」の使用方法のコツを実演してみせた。
 このように実際の製品や使い方を目の当たりにできるのは、やはり対面ならではという印象を得た。また関税などの問題を乗り越えることができれば南米展開も夢ではない。商談会はコスト算段など具体的かつ細部にわたる話し合いへと進んでいった。

アグリビジネス商談会。オンラインとは違い目の前に商品がある、日産スチール社の商品へ真剣なまなざしを向けるコロンビア出身者ら。「会社名は日産車と関係がありますか」という質問も飛び出した。文化の違いに通訳者が補足説明をすることもある

中南米日系農業者の6次産業化そして連携ビジネス創出へ

 高品質というのは消費者や購買者の基準が元にされる。比較的高品質な製品を生産している中南米日系農家らではあるが、農場視察や日本企業との提携交流のための商談会により、あらたに日本市場参入への目的に近づき、その前段階としてそれを基準とした国内または南米共同市場においても品質向上、さらなる付加価値をもった作物や製品の流通、販売という農産業の6次化が期待されそうである。
 また在日ブラジル、メキシコ、コロンビア、ペルーの大使館からも後援参加があった。
 この事業には、拓殖大学国際学部の本事業のアドバイザーとして竹下幸治郎氏が2019年から参画、中南米農業ギャラリー(https://nikkeiagri.jp/gallery/index.html)を提案し、現地の農場や作物、働いている人々について発信している。
 その一方、研修は2020年からの2年間はオンラインで行われた。対面研修再開において、重要なのは味わい、また、触れてみることであり、ビジネスマッチング商談会でも製品だけではなく、会ってお互いを知ることでさらに信用性も増し、連携が増幅しビジネス創出が起こりやすくなるのではないかと期待しているという。

農林水産省政務官藤木眞也氏を表敬訪問

農林水産省藤木政務官への表敬訪問。熊本の農家出身との親近感ある話に聞き入る。中南米日系農業者等との連携交流・ビジネス創出委託事業対面実施は3年ぶり。マスク着用、コンパートメント付きであった。

 中南米アグリビジネス研修生は農林水産省の藤木眞也政務官に表敬訪問を行った。藤木政務官は研修生の熱意を受け取り、よい製品をつくるため役立ててくださいと激励した。
 一行は横浜植物防疫所視察や、日本マテ茶協会訪問、さらに北海道研修も行い、毎日が感動の嵐であり、忙しい日々を過ごしている。11月10日には中南米に帰着する予定である。
  □余談□
 朝8時から夕方6時の研修を経て、ホテルに帰着後すぐラーメンを食べに行こうという声があがり、東池袋で有名なラーメン店の暖簾をくぐった。ブラジルの日系社会の規模から日本食なら何でもあるのにもかかわらず、ブラジル出身研修生は「ブラジルのとは全然違う。明日も来て全種類食べてみたい」と初めてのしょうゆラーメンへの感動を共有することができた。帰路、近くのスーパーで買い物をする際、あまりにも小さくて艶やかな野菜や果物、特にピーマンやナスに驚いた様子であった。

最新記事