「口だけのお約束」が現実の恐怖に

ジェフェルソン氏(左)とボルソナロ氏(Twitter)

 ついにボルソナロ氏と関係の深い筋から銃撃事件が起きてしまった。銃撃を行ったのはロベルト・ジェフェルソン容疑者。かつてボルソナロ氏も所属したブラジル労働党(PTB)の党首でボルソナロ氏にとっては政界の恩師の一人。そして、ネット上での数々の奇抜言動で「表現の自由の戦士」と持て囃されていたお騒がせ人物だ。
 ジェフェルソン容疑者は23日の事件で、自身を逮捕に来た警察に対し、マシンガンで50発を発砲し、手榴弾3つを投げつけた。「咄嗟の反応」や「正当防衛」でそこまでの攻撃が行えるはずはない。加えて同氏は実刑判決を受け、自宅受刑中の身。その立場で、ここまでの武器を所持できていたこと自体がかなり謎だ。
 この一件は大統領選決選投票を1週間後に控えたボルソナロ氏にとって大打撃だった。「恩師が殺人未遂で逮捕」というだけでも十分衝撃的だが、それ以上に大きいのは、支持者の多くが信じ切っていた「ボルソナリズムのお約束」が脆くも崩れて去ってしまったことだ。
 読者諸氏はボルソナロ政権というものが、実は「国民がもっとも民主主義を信じている時代」に成立した政権である事実をご存知だろうか。意外かもしれないが、少なくとも意識調査の記録においてはそれが真実だ。
 4年前の大統領選のときも現在も、国民の約75〜80%近くが「民主政治を理想とする」としている。独裁制を望む人は国民の5%いるかどうかだ。
 これはつまり、支持者らは「ボルソナロ氏は、世論が自分に都合が悪くなると、すぐに軍の意向をチラつかせて威嚇したりはするが、政敵を牽制しているだけで、実際に独裁者になったり、人権を無視した政策などはしない」と信じているということだ。
 コラム子がこの4年間、ボルソナロ支持者の動向を見てきて学んだことは、彼らはルーラ氏などの左派の強い力に対抗できる保守派の求心的存在が欲しいだけで、別に独裁者がほしいわけではないということだ。
 ボルソナロ支持者は、ルーラ氏がかつてブラジルをキューバやベネズエラのような国にするのではと恐れられたが実際にはしなかったのと同じように、ボルソナロ氏もブラジルを独裁制国家にはしないと思っている節がある。
 だから「最高裁を攻撃せよ」とマシンガンを抱えた写真を拡散していただけのジェフェルソン氏は、ボルソナロ氏同様に「対左派勢力の勇ましい助っ人」として、人気者だった。彼に本当の銃撃戦を起こして欲しいと思っていた人は果たしていただろうか。
 今回の事件で「お約束」は脆くも破れた。決選投票に向けてのボルソナロ氏の追い上げムードに急ブレーキがかかったのを見るに、支持者の受けた衝撃は想像以上に大きそうだ。(陽)

最新記事