《記者コラム》選挙キャンペーン最前線の裏側=(7)=「ドブラード」という伯国らしいやり方 大浦智子

ドブラードとなった人々とジャロール氏が写ったビラ

 筆者が3月からスケジュール管理の補佐を務めてきた、帰化シリア難民の聖州議員立候補者アブドゥルバセット・ジャロール氏の得票結果が、有無を言わさず10月2日に公表される。
 選挙用に登録した通称アブドゥル・ジャロールは、アルファベット順の名簿では聖州議員立候補者リストのトップバッターに躍り出ている。
 同じブラジル社会党から聖州知事への立候補を降り、上院議員に出馬したマルシオ・フランサ元聖州知事は、世論調査でほぼ当選が確実。フランサ夫妻と親しいジャロール氏にとっては、それらのことは何となく幸先の良いものに思える。
 とはいえ、単独では知名度といい、境遇といい、誰が見ても不利な立ち位置にいるように見えるジャロール氏。それでも、一抹のというか、賭けに出られる希望はある。それが、選挙キャンペーン中に彼の側近らが最も力を入れて来た「ドブラード」という選挙システムである。

徒党を組む選挙戦

 ドブラードというのは、日本風にいうと「徒党を組む」というようなイメージである。特段悪いイメージで言っているわけではなく、政治の世界は理屈ではなく言葉巧みな駆け引きが物言う世界で、きれいごとでは済まされないと思えば「徒党を組む」が最もしっくりくる。
 筆者が見ていて、論理的というよりは直感で、水商売に強そうなジャロール氏は、ブラジルの政治現場を生き抜く素養は十分だ。
 ドブラードは同じ政党や他党の立候補者と手を組み、選挙資金を分け合ったり、異なる町で互いの存在を共有して票獲得につなげるなど、協力関係を結ぶことをいう。
 ジャロール氏も多くの立候補者とミーティングを重ね、最も強力なドブラードとなったのが、元カンピーナス市長で、同市市会議員、連邦下院議員、聖州議員を歴任して来たジョナス・ドニゼッテ氏である。
 ドニゼッテ氏の地元や政党内外での信頼は厚い。同氏はカンピーナス大学にも難民移民問題の研究機関が設置されていることを重要視し、ジャロール氏に移民問題解決の旗手として期待を寄せ、手を差し伸べた。ドニゼッテ氏とのドブラード効果が最も当選のチャンスには現実的である。
 ドニゼッテ氏の他にも、下院議員に当選確実と目されているブラジル社会党のタバタ・アマラール現連邦下院議員や他の立候補者、他党の議員ともドブラードとなっている。特に売れっ子のタバタ氏などは皆がドブラードとなりたいため、多くの聖州議員立候補者とパンフレットのイメージなどで一緒に写り、協力関係にある。彼女の場合、特に女性の聖州議員候補者を後押ししているようでもあり、ジャロール氏への効果は少ないであろう。

宝くじ感覚の投票者番号

 選挙前になると、投票日にすぐに投票できるように、候補者番号を記せる紙があちらこちらで配られる。日本人にはまるで宝くじの番号でも記すような感覚に見えるが、候補者番号を自分で記すのではなく、既に番号が印刷済みの紙が配られているのも驚きである。
 政治屋の押し売りのようなイメージにさえ感じるが、多くの立候補者が行っている手法で、ジャロール氏も右に倣えで、左派に属しているため、自分を含めた左派の候補者番号と肖像画が印刷された紙が事務所にどっさりと届けられ、あちらこちらで配布に当たった。
 ジャロール氏は自分の友人知人、アラブ人コミュニティをはじめ、結束のあるユダヤ人コミュニティやサンパウロには正規には約10万人、非正規を含めると約50万人もいるボリビア人コミュニティ、他にも様々な難民移民コミュニティや関係機関にも地道に足を運んできた。
 それでも、ブラジルという大国の政治競争の中では、蛇のように賢くなり、インシャーアッラー(神様がお望みならば)に身を任せて今は結果を待つのみである。

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