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在住者レポート=アルゼンチンは今=相川知子=インフレ年40%なら「普通」=パンの値段聞いて目が覚める朝

1カ月で1ドル230ペソから7月336ペソに

 去る7月23日校正上がりの早朝、ねぼけまなこで近所のパン屋に入ると、パンが1キロ400ペソになっていたので、一気に目が覚めた。2週間前に値上げしたばかりだそうだ。
 7月22日の金曜日はアルゼンチンのドル為替(近頃は「ブルーレート」と呼ばれる)が1ドル336ペソで終わった。実はこの2週間前までこのパン屋では1キロ340ペソだったのだ。
 「ドルの為替レートを見て値段を変えているんですか」と聞けば、「うちはドルを扱うようなお金もない、しがない移住者で、パン屋をやってその日暮らしをしているだけですよ」とパラグアイ人の店主は答えた。
 去る7月14日のNHKラジオ深夜便で「インフレが止まらない。パンの値段がもう一キロ340ペソです。前回の5月のレポート時には300ペソだったのに」と報告していたから思い出した。
 さらに遡ると6月25日は1ドル230ペソであった。ちょうど長女がデンマークの大学との交流と食品技術見本市見学の研修旅行生に選ばれたので、10月の航空チケットを買わなければならなかった。同級生の親から「同じフライトを買いましょう。来週には値上がるから急いで」と怒涛のメッセージが入るようになった。それもそのはずである。翌週には為替は300に届くかとなった。

機能していない「公定レート」

 アルゼンチン銀行発行カードで外国での買い物をオンラインで行い、クレジットカードで支払う際にはdólar tarjeta カード用ドルが適用される。例えば、本日の国立銀行のレートは136ペソにもかかわらず、カード用は239ペソになり、これに35%税金が課せられていたが、一週間前から45%に上がった。
 dólar libre自由レート(ブルーレート)は338ペソだから、表向きの公定レートはあるが現実運用ではほぼ同じだ。18人が宿泊するので、ホテルへ値段交渉し連絡を待っていたが、とうとう今週は一人行かないと言い始めた。アルゼンチンの家族は保守的で「20歳の娘を研修旅行で一人で外国旅行になんて!」という家庭もあり、家族4人で行こうと思っていたようだ。
 物価が上がるのはアルゼンチンでは珍しいニュースではない。アルゼンチン在住32年目、1991年当時は1ドル1ペソのコンバーティビリティプランの時代である。当時1ペソで買えたのがパン、小麦粉、食用油、バター、マテ茶などの基本的生活物資である。これが物価のバロメーターとしていつも念頭においている。
 アルゼンチンでは農産業の国で、資材、原料、運輸費はドルとほぼペックしているので、アメリカドルとアルゼンチンペソの為替レートが変われば価格に影響するのは間違いない。
 インフレが年30から40%程度なら「普通」の範疇である。しかしながら毎月5%以上なので、今年はおそらく60%以上のインフレになるのはほぼ確実のようだ。
 公定レートと言えば聞こえはいいが、機能していない夢のドルレートでは意味がない。ただ、ブエノスアイレス空港の免税店では公定レートペソで支払えば安く買える。しかしウルグアイと結ぶブケブスのフェリーの免税店はブルーレートでの換算で、外国の銀行でも公定レートでアルゼンチン通貨は換金してもらえない。

毎週のように値段が上がるレストランやスーパー

 毎週のように値段を変えているのは、スーパーから高級レストランまで普通のことだ。近所の日本食レストランではシールを重ねて貼っていた。今はQRコードでデジタルメニューにアクセスできるから値段の変更も容易になってきた。店員に聞かなければわからないことも多い。書籍など、値段が印刷してあることはない。
 売り控えればもっと高く売れるのでスーパーの商品陳列もまばらであり、食用油や小麦粉には1人2個までの制限があることが多い。
 会員向けの火曜日の15%の割引日を待つのか、しかし我慢したにも関わらず値上げは主に月曜日に起こるので金曜日など買ってしまうかどうかか、見極めが難しい。
 「二つ買ったら2個目の割引率が高い」という宣伝も魅力的だが、シャンプーなどの日持ちのするものを買い過ぎたら、今度は生鮮食品を買う日銭がない。月に一度20%割引が公務員にあるので、列の待合で買い物かご一杯だったらお互いに視線をかわし、同僚だと確認。「20%給与を上げるかわりにこんなことをして」と立ち話でグチを交わす。
 ブエノスアイレスのイタリア広場でパン屋経営35年のビダルさんは、コロナ禍で隣の喫茶部は借家料で折が合わず閉店した。2年間空いていたが今週ワイン屋ができ、割引ビラのスペルがおかしいと思ったらポルトガル語で書いてあった。
 このイタリア広場を南にいくと「ブエノスの代官山」と呼ぶ人もいる、おしゃれなレストランやアパレル・ショップが立ち並ぶパレルモソーホー地区で、大きな買い物バックを抱えているのはブラジル人やウルグアイ人である。アルゼンチンの通貨ペソとドルの関係は、きっともうすぐ400ペソだろう。
【追伸】
 先般の超省の発足以来、マッサ大臣支持のため、市場は落ち着いた様子を見せてはいる。8月に入り、自由市場のドル、いわゆるDÓLAR LIBRE自由ドルレート=ブルーレートは300ペソ前後に踏みとどまっている。8月16日現在291ペソ、一方で国立銀行は141・75ペソ。カード利用は249・01ペソ。なお8月11日発表の月間インフレ率は7・4%で、過去20年来の高い数値を示した。
(注1)たくさんのドルレートがある。dólar hoy で検索できる。
https://www.infobae.com/economia/divisas/dolar-hoy
(注2)行きつけの日本食レストラン「将軍」のメニュー 最初に価格上昇のお断りのメッセージがある。
https://bit.ly/menushogun

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