南米とアジアに共通する反共極右の歴史

1973年の岸信介氏(右)と文鮮明氏(Twitter)
1973年の岸信介氏(右)と文鮮明氏(Twitter)

 日本では安倍晋三元首相と統一教会の関係に関する報道が過熱している。安倍氏を殺害した山上徹也容疑者が「母が統一教会に入信し、教会の霊感商法で家庭が崩壊した。その恨みで教会とつながりのある安倍氏を殺害したかった」と犯行動機を語っているためだ。
 日本の報道によれば、安倍氏と統一教会の関係は、教会創設者の文鮮明氏と、安倍氏の祖父、岸信介首相からのものだという。両氏は50年代から親交があり、1959年に統一教会が日本に進出した際の本部は渋谷区南平台の岸氏の邸宅の隣にあったことも確認されている。
 1968年に文氏は、岸氏ら当時の日本の右派支持者たちと反共産主義の同盟「国際勝共連合」を結成している。こうしたことは以前から知られていた話ではあったものの、山上容疑者の供述で「岸氏が統一教会を日本に招いた」とする発言が出たことで、改めて注目を浴びることになった。
 「国際勝共連合」は現在も存在し、公式サイトも存在する。そこには「共産主義の打倒」が掲げられ、ジェンダー・フリー教育への反対や女性や子供の権利に対しての制限など、現在の極右思想に通じる思想が見られる。
 これを見てコラム子は、米国、南米、そして日本の政治の、この60年ほどの共通の軸を見た気がした。南米も1960年代、「第2のキューバを作らせまい」とする米国の強力な支援を受け、ブラジルをはじめ各国に反共軍事政権が誕生した。この当時の米国はアジアでもベトナム戦争で戦い、共産国家誕生阻止に努めていた。
 だが、南米では80年代に各国で軍事政権が終焉すると、軍政時代に痛めつけられた左派勢力が大統領となる政権が90年代後半から次々と出来始めた。米国でもレーガン〜ブッシュ(父)の共和党政権の時代にソ連をはじめとする東欧共産主義が崩壊したのに、その直後に国内で黒人差別やフェミニズム、LGBTなどの新たな自由を叫ぶ人たちの突き上げを受け、反共の保守性は時代遅れと見なされた。
 そして2010年代、中国が経済大国に躍り出たことで、米国やブラジルでトランプ氏やボルソナロ氏といった旧世代の保守価値観の復活を叫ぶ、いわば反動とも言える極右政権が国際的に注目された。
 安倍氏も政治路線的には同系統のはずだったが、本人が国際社会でのラディカルな言動を避けてきたこともあってか、トランプ氏やボルソナロ氏のように扱われることは決してなかった。
 だが、改めて注目を浴びた祖父・岸氏の行動から判断するに、米国、ブラジル、日本ともに今日の政府のそもそもの背景が1960年代の反共にあることが確認できた気がした。(陽)

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