《ブラジル》加熱する大統領選に不安高まる=大統領支持者がPT党員を銃殺=ルーラ支持者の誕生日会に乱入

事件の殺害現場(Twitter)

 ボルソナロ大統領の支持者を名乗る男性がルーラ元大統領の労働者党(PT)同州支部で会計を務める男性の誕生会に武装して侵入し殺害する事件が、パラナ州で起きた。大統領選絡みの殺人事件として選挙不安や懸念が高まっている。10、11日付現地紙、サイトが報じている。
 事件はパラナ州西部のフォス・ド・イグアスーで、9日夜から10日の未明にかけて起こった。同市の市警備隊員でPT支部会計も務めていたマルセロ・アロイージオ・デ・アルーダ氏はこの日、市内の協会の会場を借りて、50歳の誕生日を祝っていた。
 誕生会パーティにはルーラ元大統領顕彰の意味もあり、ステージの正面には大統領時代のルーラ氏の写真が飾られ、ケーキにはPTの星のロゴと「PT」の文字が書かれていた。アルーダ氏は出席した代表者や娘のエレナちゃん(6)らと、ルーラ氏がサインとして使う、親指と人差し指で「L」の字を作り、にこやかに誕生会を行っていた。
 そこに「ボルソナロ参上!」と叫んで、招かれざる男性が姿を現した。会場にいた人たちが不審に思い、その場で口論が始まった。
 男性はいったん会場を後にしたが、約20分後に銃を持って再登場。会場の前にいた襲撃者の妻が止めようとしたが、それを振り切り、会場の外からアルーダ氏を狙って2発を放つと会場内に走り込み、被弾した被害者にさらに銃撃を加えた。
 被害者は倒れこみながら持っていた銃で反撃し、銃弾を浴びせた。襲撃者が倒れると、招待客のひとりが頭を蹴って抑えつけた。だが、その間にアルーダ氏は失神し、病院に運ばれたが帰らぬ人となった。
 犯人のジョルジェ・ジョゼ・ダ・ロシャ・グアラーニョ容疑者は連邦刑務官で、事件現場となった協会の役員の一人だった。同容疑者は病院に運ばれ、重体で入院中だが、命に別条はないという。同容疑者には11日に逮捕令状が出ており、回復を待って事情聴取を受けることになる、
 同容疑者のSNSのプロフィールでは「キリスト教徒、保守」の言葉と共に、「ボルソナロ大統領」の文字が確認できる。掲載された写真には2018年の大統領選時にボルソナロ氏を支持したものや2021年6月に大統領三男エドゥアルド下議と一緒に写ったものがあり、熱心な支持者ぶりがうかがえる。
 また、事件現場には車で来ており、そこには妻と生まれて間もない子供の姿もあった。銃を手に車を降りた同容疑者を妻が止めようとした姿も確認されている。
 事件後、ルーラ氏はアルーダ氏への追悼の意を表し、自身に対する政治勢力に対し、寛容を呼びかけた。ルーラ氏は6月に講演先でのドローンでの殺虫剤散布、7日にも爆弾騒ぎにあったばかりだ。
 政界からは「現在の不寛容の具現化」(ロドリゴ・パシェコ上院議長)や「現政権がテロの空気を作り上げている」(ジウマ元大統領)など、批判の声があがり、大統領選を不安視させている。
 ボルソナロ大統領は10日に声明を発表。「暴力を働く者の支持はいらない」と宣言したが、アルーダ氏や遺族への弔いの言葉はなかった。

□ひとくち記者コラム□

 日本で参議院選投票日の2日前の8日に起きた安倍晋三元首相の殺害事件は、犯人の自供から容疑者の個人的な宗教上の怨念だったことが明らかにされた。そのため、当初懸念された政治テロの疑いは薄まっており、国際注目度は低くなりつつある。その矢先にパラナ州で起きたルーラ元大統領支持者の殺害事件の方が、その殺害理由が大統領選と直結している分、より政治テロ色が濃く、10月の大統領選に向けて不安を強めている。政治家に直接危害が及ぶような政治テロにしないためにも、今回の事件を糧にする努力がブラジルには必要となるだろう。

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