世界有数の政治的音楽フェス=ロラパルーザ・ブラジル

ステージ上で映し出された「フォーラ・ボルソナロ」の文字(Twitter)
ステージ上で映し出された「フォーラ・ボルソナロ」の文字(Twitter)

 サンパウロ市インテルラゴス・サーキットで3月25〜27日、大型音楽イベント「ロラパルーザ・ブラジル」が行われた。パンデミックで2年連続の開催中止となっていたので、今回の開催に対する音楽ファンの期待は非常に高く、これまでの最高動員数記録25万人を上回る30万人が来場した。
 コラム子は2012年から毎年通っており、今回も参加した。参加者の多さはCPTM9号線アウトードロモ駅からサーキットまでの道のりの時点で容易に感じられた。ファンの熱気の強さは一つ一つのコンサートに反映され、どの出演者のステージも盛況だった。
 そんな中、アーティストと観客間の「反ボルソナロ大統領」意識の共有感が強まっていることも明らかに感じられた。思えば2019年、ボルソナロ氏が大統領に就任した年のロラパルーザでも、「フォーラ(やめろ)ボルソナロ」や「ヴァイ・トマ・ノ・ク(クソでも喰らえ)」など反ボルソナロ大統領を意味する文句が観客同士の一種の合言葉、挨拶の様に使われていた。
 その流れが2年の空白期間を経て、さらに強化されていた。今年の場合は、会場内を歩いていてもどこからか聞こえてくるし、コンサートで間が空いて一瞬の沈黙でもできようものなら誰かがそのフレーズを叫び、アーティストたちも「フォーラ・ボルソナロ」と応えるものだから、もう止まらない。彼らからはボルソナロ氏への「怒り」ではなく氏を「おちょくる」精神を強く感じた。
 こうした状況を聞きつけたボルソナロ大統領が、選挙高裁に会場での政治的な発言の禁止を求め、選挙高裁も禁止命令を出したが、それがかえって参加者の強い反発を招き、会場の「フォーラ・ボルソナロ」の声は大きくなってしまった。
 今回のロラパルーザは、大統領選支持率トップに立つルーラ元大統領の名前に掛けて「ルラパルーザ」とも呼ばれている。2015、16年の労働者党(PT)政権に対しデモが盛んに行われた年にも参加したが、会場の雰囲気は現在の様ではなかった。
 ロラパルーザにはロックやヒップホップジャンルのアーティストが多く出演し、彼らは保守性を嫌う強いメッセージを発信することが多い。そういった性質から極右政治家が批判の標的にされるのは仕方ないことか。
 それにしても、ここまで一国の大統領が批判される音楽フェスティバルというのも珍しい。米国もトランプ氏が大統領のときは米国内の音楽フェスティバルで参加者による反トランプ氏の言動がみられたがここまでではなかった。ましてや政治批判に今一つ疎い日本でこのようなことが起こったという話はまず聞かない。会場で誰かの叫んだ「フォーラ・ボルソナロ」の声を聴きながら「ここは世界でも稀な空間なんだな」と思った。(陽)

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