《ブラジル》エルザ・ソアレス死去=音楽界最長老の女性闘士=ガリンシャ元夫人、波乱の人生

エルザ(Marcello Casal Jr./Agencia Brasil)

 90歳を超えるまで息の長い活動を続け、音楽界に強い影響力を与えてきた女性歌手で、伝説のサッカー選手ガリンシャの元夫人、軍政に反対し、女性の権利のために戦った闘士としても知られたエルザ・ソアレスが20日、老衰のために亡くなった。91歳だった。20、21日付現地紙、サイトが報じている。
 エルザは20日15時45分、リオ市の自宅で亡くなった。死因は老衰だった。知人の話によると、彼女はこの日も通常通りに理学療法を行い、息が乱れた時も「大丈夫」と答えたが、その後、「もうすぐ死ぬと思う」と語ったという。これを聞いた家族が医師を呼んだが、約40分後に息を引き取った。
 エルザは晩年まで活動を続け、1カ月前にはパラー州ベレンでの音楽フェスティバルのステージに立ち、死の2日前にはDVDの収録も行った。
 エルザは1930年にリオ市のファヴェーラで生まれた。生活環境は劣悪で、12歳で強制的に結婚させられた後、13歳で出産。21歳で夫と死別するまで、次男が急死し、1歳だった末娘が誘拐されるなど、波乱万丈の日々を過ごした。
 歌手としての活動開始は30歳と遅く、1960年にオデオン社と契約した。デビュー後間もなく、サンバ歌手として注目され、1962年、当時ペレと並んでブラジル・サッカー代表の中心選手だったガリンシャと結婚した。

 この時期はヒット曲も出し、順調に見えたが、1964年6月には陸軍秘密警察の威嚇行為を受けている。彼女は、「ジュセリノ・クビチェック、ジョアン・グラール両大統領と親密だったからだろう」と語っている。
 また、1969年にはガリンシャの飲酒運転でエルザの母が事故死。ガリンシャのアルコール中毒に伴う家庭内暴力で1982年に離婚。翌年にはガリンシャが亡くなるなど、波乱が続いた。
 その後、ベテランのサンバ歌手としての名声や、反軍政、反家庭内暴力といった活動故の賞賛が高まると、若い音楽家たちにもその影響が浸透した。
 85歳となった2015年に未公開の曲だけを集めて発表した最初のアルバム「ア・ムリェール・ド・フィン・ド・ムンド」は、「世界の終わりの時まで歌う」という決意を込めたもので、ヒップホップやエレクトロ、ジャズ、ロックの影響を受けた斬新なサウンドを展開。国内だけでなく、米国や欧州でも絶賛され、80代にしてキャリア最大の成功を収めていた。
エルザの葬儀はリオ市の市立劇場で行われ、遺体は同市西部のスラカプ墓地に葬られた。埋葬の列には、彼女が愛したサンバチーム「モシダーデ・インデペンデンテ・デ・パドレ・ミゲル」の楽隊のメンバーらも加わり、「Não deixe o samba morrer(サンバを死なせるな)」という曲を奏でた。リオ市のパエス市長は20日に3日間の服喪を宣言している。

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 20日に逝去したエルザ・ソアレスに対して、芸能界や政界から続々と弔辞が捧げられている。カエターノ・ヴェローゾは、「彼女はエネルギーの塊で、人々を団結させる力があった」と語り、ルーラ元大統領は、「常に民主主義のために尽くしてくれた」、ジウマ大統領は、「ブラジルは今日、最もパワフルな戦う声を失った」と、その死を惜しんだ。弔辞はブラジル国内からだけではなく、米国の黒人女性歌手最大のスーパースター、ビヨンセまで、「ブラジル、そして世界中にインスピレーションを与えた」と、その功績をたたえている。夫だったガリンシャが亡くなってからちょうど39年となる命日にこの世を去った巨星エルザ。彼女の伝説が語り継がれることは間違いない。

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